世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】森信雄「あっと驚く三手詰」

今年12冊目読了。詰将棋次の一手の創作に定評のあるプロ将棋棋士が、詰将棋としては入門レベルの三手詰ながらも、どれも想定外の手順で詰ませる難問200題を掲載した一冊。


詰将棋とは、いわばパズルのようなものでもあり、普通はこれを「読書」とは言わないだろう。だが、この本は一味違う。筆者とのメッセージをやり取りするような中身、奇想天外な詰ませ方、そして解答に記載された筆者のこだわり、意図。これは、立派に読書と言えるだろう、と感じた。


筆者が「棋力アップよりも、個性ある駒の動きの不思議さユニークさ、そして詰みの迷路の楽しさを味わっていただけたら」と書いているとおり、これがただちに実践的とは感じないし、初心者が手筋を覚えるにはあまりにも…という感じである。そして、「作者からの注文は、解いた後に答えを確認してほしいこと、一作一作のねらいを見破ってほしいことの2つ」とあるとおり、出題者の意図を探るのが、またなかなか頭のトレーニングになる。


正直、「三手詰くらいは解ける、五手詰までならいける」というレベルで読んでみたが、これが面食らうばかりに解けない。少し慣れてくると、まさに出題者の意図が少しずつ読めてきて、解けるようになってきたが、それでも全体の4割が解けたかどうか。
でも、これって、仕事で「上司の意図を読む」としてやっていることとよく似ている気がする。上司(この場合は出題者)の考え方って、最初はわからなくても、その癖や偏りを見抜けばだんだん読み解くことができるようになるし、慣れてきた後で「あ、そうか!そっちか!」と歯噛みするような感覚は、この本とビジネスでの実務の相似形のようだ。
また、自分自身もメンバーに指示をする際に「意図を込めて、あえて問う」ということをちょいちょいやるのだが、まさにこの本の解答で書かれているようなイメージだ。「ワナを仕掛けていたりするので、解けたと思っても解答を確認されたし」「しがみつかないで手を放せば道は開ける」「思考回路が同じなので、つい出来てしまう」「思わず自分でうまく出来ているなと感心してしまう」などは、ああ、それ、自分もやっているなぁ、とどこか見透かされた気持ちになる(←詰将棋を解いているだけなのに)。


そして、解いているとだんだん出題者の作意が見えるようになってくる。「私はどうも地味な働き、些細な効果が好きなようである」「表の筋より裏の筋をひねり出すのが、私のクセである」「駒がそっぽに行くのは、へそ曲がりな私の性に合うのだろう」「簡単でもいいから、トリックの味が出ているのがよい。自分勝手にそう思う」のあたりのコメントに思わず納得したり。「長所に見えるところが短所。これは人間にも通じるものがある」は、いつの間にか詰将棋が人生哲学になっている。


よくもまぁこれだけ奇抜な問題を創作したものだ、と感嘆するが、発想をするということについても「毎日数題ずつ作っていったのだが、素材の着想が浮かばない日もあった。それでも強引に駒をいじっていると、ふとできるのだ。」「小さな感動が発想の出発点である」「知恵をしぼり、答えをひねり出すのは結構面白いもの」「単調ではあるが、ねらいが明確な作ほど作るのも楽しい」などのヒントがあり、学ばせてもらえる。


…なんだかビジネス書の解説のようになってしまったが、実際はとても面白い詰将棋の本。ただ、「駒の動かし方がわかる」程度だと本当に厳しいし、「将棋が強くなりたい」という人には向いていない。だが、「三手詰くらいは解けるさ」というレベルであれば、本当に楽しめる。Facebookで先輩がお薦めしてくれていた本が図書館になく、類本を借りたら絶妙に面白かった。