世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】早瀬晋三「マンダラ国家から国民国家へ」

今年5冊目読了。大阪市立大学大学院文学研究科教授の筆者が、東南アジア史のなかの第一次世界大戦を読み解く一冊。


どうしても、東南アジア史となると、日本人は自らが深くかかわった歴史的経緯から「第二次世界大戦」ばかりを重視してしまう(それ以前の時代は、ほぼ朝鮮・中国しか見えていない)のだが、この本を読むと、なるほど第一次世界大戦より前に既に「その後の時代の動きのタネ」がバラ撒かれていた、ということがよくわかる。


筆者は、国民国家の形成にもたつく時代のアジアを「王とその取り巻き集団が、王の神聖化を軸として権力を形成したが、弱くて流動的であった」とする「マンダラ論」から標題を取っている。そして、各国の素地として「東南アジア各国の大小の王国は、それぞれ古代からときに中国と朝貢関係にあった歴史をもつ。それでも、独自性を保ち、固有の社会・文化を形成してきたのは、支配する側の制度や思想を巧みに自分たちにあうように変えて受け入れてきたからである。したがって、欧米による植民地支配にたいしても、抵抗しながらも学びとるこれまでの経験があった」と述べる。


アジアに進出した欧米の宗主国は「近代植民地形成のために中央集権的な統治機構を導入しようとしたが、はじめ多くの国や地域で直接統治することができたのは首都を中心とした都市部や開発がすすんだ地域などに限られ、旧来の有力者を植民地支配に抱き込むかたちで間接統治をせざるをえなかった。そして、植民地の官吏の不足から、王族・貴族や有力者の子弟らに、近代的な教育を受ける機会を与えることなどで植民地支配に組み込み、直轄地を拡大していった」。そして、その植民地の統制があったものの「第一次世界大戦のおもな戦場はヨーロッパであったため、東南アジアに植民地をもっていたイギリス、フランス、オランダは、戦後、戦前のようにその支配を維持・強化する力はなかった。逆に、戦場とならなかったアメリカと日本が東南アジアで存在感を増していった」。結果として「国や地域によって具体的な影響はまちまちであったが、植民地支配を利用し、新たな国づくりに着手する機会を、第一次大戦が与えたということができるだろう」と分析する。


その後の動きを規定したのは「第一次大戦後、東南アジア各国・地域で近代学校教育が普及し、植民地行政に必要な人材が育っていった。また、ヨーロッパに留学するエリートも増え、民主的な国家像が具体的にイメージされ、運動も組織化されるようになった。しかし、植民地支配を受けた本国の言語や制度がまちまちであったことから、それぞれが植民地支配を受けた領域が、民族運動の基本的地域となった」と主張する。


全体像については、なるほど納得できる部分が多いが、いかんせん個別論が細かすぎ、多少東南アジアの地理には通じていると思っている自分ですら「これはかったるい…」と思うほどで、読み疲れるわりに得るものは…という感想を禁じ得ない。上記にまとめた流れ・見解を理解するくらいであれば、わざわざ時間をかけて読むほどではないかな、というのが正直なところ。それでも興味のある方は、ご一読を。