世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】読売新聞北海道支社夕張支局「限界自治 夕張検証」

今年132冊目読了。夕張市の破たん、財政再建団体としてのスタートの苦渋と、それを取り巻く人々の動きを「女性記者が追った600日」としてまとめ上げた一冊。


財政破綻の大きな原因を作ったのは6期24年もの長きにわたって市町を務めた中田鉄治氏だとし、その状況について「市長となった中田氏は、閉山後に北炭から買った土地を自在に使い、観光の町への転換を図る。実現しそうにもない大きな話を意気揚々と展開する姿に『ほら吹きの中田』と言われた。だが。閉山に沈む夕張市民にとっては、中田市長は夢を実現してくれると思った。ある元職員はすべての炭鉱が閉山した1990年、『中田市長の観光路線についていけば大丈夫だと思った』と振り返る」「中田市長が市職員を統括する手法は『懐柔と恫喝』だった」とし、その手法について克明に記載していく中身を読めば読むほど、空恐ろしくなる。組織はトップから腐る、というものを地で行くような身勝手な行動と、思考停止に陥ってそれについていく周囲の人たちの動きがまざまざと描き出されている。


また、財政という誰でも見えるべきものがおかしくなったことについては「なぜ夕張市が、標準在籍規模をはるかに超える借金を抱えながら、これまで明らかにならなかったのか。それは、地方自治法の抜け穴を突いた巧みな財政処理で、水面下で借金が膨らんでいたからだ」「『ヤミ起債』が始まったのは、資金繰りが苦しく、通常の地方債の発行が認められない状況に陥ったことが一因だ。各産炭地とも財政状況が悪化していたが、『ヤミ起債』に手を出すことで、市町の財政立て直しという問題は先送りされた。そして、ツケは住民に回ってくる」と、そのからくりを説明してくれる。これを見るにつけ、やはり「簿記3級程度の知識はないといけない」という堀江貴文氏の見解は(本人属人の好き嫌いは別としても)至当だなぁと思う。小難しい数字なんてよくわからない、という市民感覚に付け込まれたのは間違いない。


そして、中田氏の跋扈を招いた遠因の分析が優れていると感じる。「まちを再生させたい想いは理解できるが、一方には『国の政策転換で閉山させられたのだから、最後は国が面倒を見てくれて当然』との意識があったのではないか。夕張市は、財布のひもをゆるめる具合と、締める具合のバランスを完全に失ってしまった。そのツケは、何の責任もない子供ら将来の市民に回ってくる」「夕張は組織で、偉い人の言うことをきいて、意見を言わないでいれば面倒をみてもらえた。夕張の外から来たらそれがおかしいと思うが、市民はそれが当たり前と思っている」のあたりは、しみじみそうだと思うとともに、これらの要素は日本と言う国家全体に蔓延していないか。そして、自分の属している組織はどうなのか。ただ単に「高齢化していく日本における絶望モデルの1つ」ではなく「いつでも陥ってしまう組織の行動原理」と見て取ることで、この本の活かし方は全く変わってくると感じる。