世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】金井壽宏「働くひとのためのキャリア・デザイン」

今年131冊読了。神戸大学大学院経営学研究科教授の著者が、自分らしく成長していくためのヒントを、代表的なキャリア研究、発達心理学の概念を通して紹介する一冊。


「キャリアの歩みを、環境・時代のなかで自分らしさを追求する道にしていくには、節目はしっかりとデザインすることが大事になってくる」「節目だけはデザインすることによって、節目をくぐる度にさらにビッグに一皮むけるような生き方を目指したい」としつつ「いいものに出会い、偶然を活かすには、むしろすべてをデザインしきらないほうがいい」「ドリフトの恩恵を受けるためにも、この方向をめざしたいという強い希望・想いや夢、その方向に行けば絶対になにかいいことがありそうだという強い信念が必要だ。でないとただ流されているだけになってしまう」と述べる。「1)キャリアの節目のデザインは、自分で選び取る2)節目にさしかかるとき、あるいは、人生そのものが、他のひとたちとのつながり、相互依存のなかに自分がいるということ」の両立というのは、確かにそのとおりだなぁと感じる。


現代の課題については「変革の時代には、変革のデザイナーという意識を持てるか、変化の犠牲者という意識に陥ってしまうかで、キャリアの歩み方における違いは大きい」「これからのキャリアをめぐる課題は①グローバルな視点②意味ある全体が大切③ワーク・ファミリー・バランス④多元性、異質性の許容⑤仕事の中の精神性⑥個人のトランジション、組織や社会のマネジメント」をあげる。


節目、移行期については「節目や移行期は危機である。でも、危機という漢字を見ればわかるように、節目につきものの危機には、『危険』と『機会』がともに存在する。だから、節目にはイケイケどんどんのままではなく、歩みをしばし止めて、内省する必要がある」「移行期というのは、ある状態が終わり、別のある状態が始まるということであるのに、多くのひとが、後者の『開始』ばかりを目にして、いったいなにが終わったのかという『終焉』を往々にして不問にしている。また、その移行期が大きな転機であればあるほど、『終焉』から『開始』へと、さらりとは移れない」「新しい扉を開けるばかりでなく、新しい世界に入ってそこを歩み続ける持続的エネルギーは、逆説的なようだが、中立圏という一見混乱と苦悩に充ちた時期を通ってからでないと充填されない」の大事さを語る。そして、節目と気づかせる契機として「①なんらかの危機②メンターの声③ゆとりや楽しさ④カレンダーや年齢的な目印」を意識するよう提言する。


ミドル世代の持つべき考え方としては「中年への過渡期に差し掛かると、人生の半分を歩んだ時に、自分の将来を展望するためにこれまでの来し方を内省するのが重要だ」「ミドルになっても自分のことしか考えずに『オレが』『オレが』と自分中心のまま生きているひとよりも、部下や後輩のために、次の世代のためにいいものを残したいと思っているひとのほうが、若手にいいリーダーシップがとれる」「最も重要な視点は、ひとはいくつになっても発達するというものの見方である」「深い意味で、真の個性化は、四十歳以降に始まるのである。それが統合というテーマの起点であるから」「中年期は、いったん確立したと思っていた自己イメージを軌道修正しながら、あらたなアイデンティティを探求しなおす時期でもある。自分探しは、中年になっても続くのである。夢の現実吟味が、自分探しに可能性という軸を授ける」「40歳から45歳という中年への過渡期の課題は、①若さと老い②男らしさと女らしさ③破壊と創造④愛着と分離、でうまくバランスを取り、折り合いをつけること」「節目の緊張時以外には、リラックスするこお、楽しむことが大事で、節目の緊張時には、ストレス…マネジメントの自分なりの方法を身につけたい」と、力強く指摘してくれる。


これは、中年期を生きる、または差し掛かる人には必読だ。2002年に、これだけの知見に至っている著者の慧眼に舌を巻く。「自分の仕事が他の人びとに依存していることに気づくこと、そのためひととの関係を扱う側面のリーダーシップを磨くことは、一皮むける経験として挙げられることが多い」は、充分に留意していきたい。