世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】新庄耕「ニューカルマ」

今年127冊目読了。マルチビジネスに転落する主人公と、その周囲の人物を、主人公の心の揺らぎを通しながら描き出す小説。


これは、恐ろしくも面白い。人間の弱さ、傲り。そこにつけ込むビジネスモデルであるマルチ商法。マルチ側の闇に落ちないために、また知人・友人を落とさないために、読んでおきたい本だ。


なんとも言えないラスト(ネタバレ回避で、詳細は割愛)で、独特な読後感。そして、そこここの伏線が気になり、すぐに再読してしまった。推理小説でもないのに、自分としては珍しい。


そもそもとして、仕組み云々も勿論のこと、「ネットワークビジネスの勧誘は滅茶苦茶しつこいし、勧誘してくる奴が知り合いとかばっかりだから断りづらい。なんか微妙な友達とか、親戚とか来る」「友達から縁切られるって…それって普通じゃない」あたりに胡散臭さがある。


ネットワークビジネスに近づいてしまう心理として「転職先を探しながら、思いがけず、世の中における自分の価値らしきものを知らされることとなった。社会に出て以来それなりに充足していたはずの歳月が、幾度となく無意味に感じられた」「空気のように当たり前の存在だった。実際にそれらがなくなるまでは。残業手当もボーナスもそこにあるのが当然だった」などは、恐怖と納得感がある。


ネットワークビジネスにはまり込む心理として「成功者の余裕にまどわされ、甘く見過ぎたのかもしれない。もう少しすんなりうまくいくものだと思っていた」「自分が正しいことを示したかった。誰もが納得せざるを得ない結果を掴み取り、自分に否をつきつけてきた全ての者を見返したかった」「夢などこれっぽっちも見てはいなかった。放っておけばすぐにも消えてしまいそうな現実を、必死に追いかけているだけだった」は、実によく描かれている。


ネットワークビジネスの本質については「洗練されたオフィスの背後で、多くの人が甘い幻想につつまれ、日々、搾取されている」「大衆だますような事実なんてな、んなもん作ろうと思えばいくらでも作れるんだよ。どいつもこいつも、結局はてめえの都合のいい綺麗事あたえりゃ犬みたいに尻尾ふって喜ぶ」が、鋭く核心を突いている。


「人を騙すことなんて、これっぽっちもしたくないですよ、僕は。金なんかのために」という台詞が空々しく聞こえるほど、強烈なインパクトがある。ネットワークビジネスにはまり込む前に読む必要がある、という本だな。理屈よりも、感情に訴えかけてくるのが凄まじい。


コロナ禍で、雇用・経営が揺るがされる時代だからこそ、押さえておきたい。そんな一冊だ。