世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】佐々木敏「栄養データはこう読む!」

今年121冊目読了。東京大学大学院教授にして、科学的根拠に基づく栄養学を提唱する筆者が、疫学研究から読み解くぶれない食べ方を提唱する一冊。


脂肪異常症については「コレステロールの摂取量はこの50年間に2割減ったが、飽和脂肪酸のほうは逆に6割増えた」「日常的に食べている揚げ物の揚げ油ではコレステロールは上がらない。しかし、揚げ物でも揚げ物でなくても、エネルギー(カロリー)のあるものを食べ過ぎれば肥満につながり、肥満が(脂肪酸とは別の理由で)コレステロールを上げてしまう」「中性脂肪を上げる栄養素は、脂質ではなくてむしろ炭水化物」と述べる。


食塩と高血圧については「血圧が高くないから塩辛いものを食べても大丈夫、ではなく、将来も正常血圧でいるためには減塩はたいせつ」「エネルギーをとりすぎずに、血圧を下げるカリウムをとるには野菜がおすすめ」「太めの人は自分が食べているものをかなり少なく考えている」「食べ過ぎないために、目の前の食べ物一つ一つを舌と脳の両方でていねいに楽しむ」「ソフトドリンクの本当の怖さは、きちんとした食事をとるという基本的な習慣を奪ってしまうこと」「朝食をとらないと肥満のリスクが上がるのは事実」「理想的BMIより太めの人は減量に励んだほうがよい。それよりも細めの人は、運動量を減らさずに食べて体重を増やすか、ほかの生活習慣に気をつける」と指摘する。


お酒については「健康のためには、お酒の種類ではなく、どんな料理といっしょにいただくかに気を配るのが正解」「お酒はあくまでも食事と会話の引き立て役」「高尿酸血症痛風の原因は、お酒とプリン体だけではなく、肥満も原因。適度な運動は肥満を予防するし、尿酸を下げる」とする。


健康な食事については「日本食と地中海食のハイブリッドを目指し①野菜をたっぷり食べる②果物をたっぷり食べる③精製度の低い穀物を主食にする」「体重の増減はエネルギー(カロリー)摂取量の問題であり、糖質か否かは本質ではない」「糖尿病の予防には、食物繊維が豊富な穀物を選び、できれば、野菜がたっぷりの食事も心がけたい」と言及する。


栄養健康リテラシーについての記述は「私たちの健康はおもちゃでも使い捨ての試供品でもない。出典不要の娯楽情報と出典必須の健康を支える情報を厳密に分けて使う社会にしなくてはいけない」「私たちにとって直接に参考になるのはヒト研究。さらに、私たちの健康を守ってくれるのは、ヒト研究のなかでも、最新の数編の論文ではなくて、多くの研究者の努力によって行われたたくさんの研究によって築かれたおちついた情報」と、かなり強く述べていて、共感できる。


科学といえば何でもあり、という様相を呈している現代社会において、「誰でもわかる的な単純な連想ゲームを目にしたら、それは違うかも、と感じて、専門家の話に耳を傾ける」「なにごとも、よい面だけを伝える情報は少し割り引いて読む」「研究者(情報の生産者)、売り手・マスコミ(情報の伝達者)、読者・視聴者(情報の利用者)、みんなが情報バイアスを生み出し、広めている」「たとえ科学者が貴重な事実を発見したとしても、社会に正しく伝わらなかったら意味がない」という筆者の姿勢、主張はとても大切。スパッとした結論は多くないが、この姿勢を体感できるだけでも、読み応え十分だ。