世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】中村和彦「入門 組織開発」

今年115冊目読了。南山大学人文学部心理人間学科教授、同大学人間関係研究センター町である筆者が、組織開発についてわかりやすく紐解いて解説する一冊。


私淑する中原淳先生の盟友である中村和彦先生の本なので、一度読んでみたかったが、これはすっきりまとまっていて読みやすい。まさに、入門の名のとおりだ。


「組織開発を大きな木と例えると、コーチングやファシリテーションなどの手法は、その木の実りある枝葉」とわかりやすく整理した上で「組織のマネジメント課題は、目的・戦略、構造、業務の手順・技術、制度・施策、人、関係性」があると指摘。特に後者2つというソフト面の取り組みが欠けるとして「人は、させられることによっては活き活きとせず、その人の力や潜在力も発揮されない。自らがやりたいと感じた時に活き活きとし、その人らしさや潜在力が発揮されていく」「人が自ら仕事をやりたいと感じ、内発的動機づけを高めるためには、仕事の意味が腹落ちすることが必要」と主張する。


悪いマネジメントとして「数値によるマネジメントは楽で反論が起きにくく、議論も必要がないので、単純で簡単な認知的処理と判断を好む認知的ケチに最適な方略」「創造的思考が生まれるコミュニケーションを阻害する一つの要因は、指示伝達形マネジャー」と警鐘を鳴らし、対面コミュニケーションが減っている現代人の傾向から「多様な人々がともに働き、協働することが可能となるような働きかけやマネジメントの必要性は、今後さらに高まってくる」と予想する。


では、組織開発とは何であるのか。「組織というシステムが発達していくためには、組織内の当事者が自ら組織をよくしていくことに取り組むことが大切」「組織内の当事者が自らプロセスに気づき、そのプロセスをよくしていくことで、組織の効果性が高まり、成果や業績が高まる」とポイントを挙げ、「組織開発の根底にある価値観は、①人間尊重の価値観②民主的な価値観③当事者中心の価値観④社会的・エコロジカルできるシステム志向性」とする。


どのように組織開発に取り組むか、については「業績に対する関心と人に対する関心がトレードオフになるのではなく、両方が統合されることを重視し、両立に向けて働きかけることができるマネージャーの養成に取り組む」「組織や個人の強みや潜在力を発見し(ディスカバリー)、それらが発揮された未来を創造し(ドリーム)、ともに目指す状態やあり方を明確にし(デザイン)、行動と変化の定着のための取り組みを計画していく(デスティニー)、という4Dサイクルを回す」「組織開発という部署が果たす機能を理解してもらい、信頼してもらうため、成功例を積み重ね、組織開発の機能について社内に広報していく」ことを提唱する。さらに「組織の人間的側面を経営層が本気で重視し、そのメッセージを組織の構成員に伝え、かつ、長期的に取り組む必要がある」と述べる。


「人々によって語られる言葉がグループや組織の風土や文化を形づくっていく」は体感的に理解できる。また、中村先生の信念、価値観が溢れており、心地良い。「組織開発では、何をするかよりも、改善や変革を促進することを目指した、当事者との関係構築に向けた『あり方』が大切」「経済的な価値観や効率性が重視されている日本企業の現状に対して、人間尊重や民主的な価値観はもっと大切にされるべき」「関わり方や行動は、『今ここ』のプロセスに対応していくことが大切」などは、先生の人格が滲み出ている。


この本を読むと「究極的にいえば、人は幸せになるために生きているのであり、そして、そのために仕事をしているわけで、不幸せになるために仕事をしているわけではない。組織の健全性が高まるには、できていないことに目を向けるだけでなく、できていることにも目を向けることが重要」という価値観を、何とか自分のいる場で実現したい、と勇気をもらえる。興味のない人にとっては夢物語かもしれないが、これは取り組む価値も必要もある、と感じる。


新書で、読みやすい。お薦めしたい。