世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山口周「劣化するオッサン社会の処方箋」

今年92冊目読了。電通ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、組織・人材開発のコーン・フェリー・ヘイグループのシニア・クライアント・パートナーを務める筆者が、生き方が変わってきている現代におけるオッサンの問題点とそのあり方について提言する一冊。


これは、非常に興味深いとともに耳が痛い…


まず、オッサンとは「①古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する②過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない③階層序列の意識が強く、目上の人に媚び、目下の者を軽く見る④よそ者や異質なものに不寛容で、排他的、な行動様式・思考様式を持った存在」と定義する。それが生まれた背景については「幸せになれるという大きなモノガタリの喪失前に二十代という基本徹底=人格のOSを確立する重要な時期を過ごしたのに、社会からそれを反故にされた世代なので、社会や会社に対して話が違うと恨みを抱く」「教養世代→知的真空世代→実学世代という世代移行で、アートにもサイエンスにも弱くオッサンたちが、社会や会社の上層部で実権を握るに至っている」と述べる。


そして、この現状に対して「人間というシステムがエントロピー増大の法則に従って劣化するのと同じように、企業組織もまた劣化する。それは、組織が大きく、古くなることでより顕著になる」「配下の人からのフィードバックが足りていないたまに、自分の人格や人望について勘違いしている人があまりにも多い」と警鐘を鳴らし、年長者の価値を毀損する三つの理由を「社会変化のスピード、情報の普遍化、寿命の増進」とする。


このような状況でのリーダーシップについては「リーダーシップというのは、関係性に関する概念」「サーバントリーダーシップの発揮という問題と、具体的な計画に関する知識やスキルという問題は、全く別のもの」と述べ、「リーダーシップの多様性が求められる中で問われるのは、あなた個人はどのようにして組織に貢献するのか、ということ」と厳しく迫る。


成長について「良質な経験を抜きにして人材の開発・成長は考えられない」とし、そのために「汎用性の高いスキルや知識などの人的資本と、信用や評判といった社会資本を厚くすることで、自分のモビリティを高める」「環境がどんどん変化するなかで発生する未曾有の問題に対して、より根元的な人間性や道徳といった立脚点に根ざして、その人らしい正しい判断をしていくには、なによりも教養が必要になる」「人間の成長は学習という概念と深く関連しており、学習は経験の質に関わっている。職場で良い経験をすることが、個人の成長にとって決定的に重要。いろんな仕事を、いろんな人たちと、いろんなやり方でやったという経験の多様性が、良質な体験をもたらし、学習を駆動する」と指摘する。


権力については「権力は、情報の独占と支配によって、その生命を維持する」と説き、「権力が弱体化する時代だからこそ、私たちは自分自身を知的に武装し、オピニオンを主張し、相互の発信に耳を傾けて対話していく必要がある」「私たちの時間を意味のあるものに変えていく、権力と戦う武器に変えていくためには、学び続けねばならない」と提唱する。


人生が3ステージモデル(学生の22歳まで、会社員の60歳まで、老後)から4ステージモデル(春の25歳までは基礎学力を身につけ、夏の50歳まではいろいろトライして経験を積みつつ得意・不得意を理解する、秋の75歳まではそれまで培ってきたものから世の中に実りを返す、冬で余生を過ごす)に変化する時代では「セカンドステージのちょっとした発射角度の違いが、数十年後に到達できる人生の高度を大きく左右する」「サードステージでの実りの大小は、セカンドステージでの体験の質にかかっている」とし、「なんらかの学び直しにより、自分自身の社会的な位置づけをパラダイムシフトする」「今後は、学ぶと働くがパラレルに動く人生モデルが主流になっていく」と予測する。


このような時代を生き延びるためには「学びの密度を上げる」「劣化しない結晶性知識を身につける」「長いこと有用な知識や情報を学びたければ、その変化や情報が活用されてきた期間に着目しろ」「挫折して逃げても、盗めるものはできるだけ盗んで、次のフィールドで活かす」ことが大事で、カギは「良質な仕事体験と、社外での活動」とする。


最後のメッセージ「①組織のトップは世代交代を経るごとに劣化する②オッサンは尊重すべきだという幻想を捨てよう③オピニオンとエグジットを活用してオッサンに圧力をかけよう④美意識と知的戦闘力を高めてモビリティを獲得しよう」は、劣化するオッサンである自分にとって、重く響く…自戒せんといかんなぁ…現代の宿痾を鋭く抉り出す良書。新書で読みやすい上に、中身が充実しており、一読をお勧めしたい。