世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】クロード・スティール「ステレオタイプの科学」

今年88冊目読了。コロンビア大学の副学長を経て、スタンフォード大学心理学教授を務める筆者が、社会の刷り込みは成果にどう影響し、私たちは何ができるのか?を提唱する一冊。


これは良書だ。「ステレオタイプ脅威」ということについて「周囲からステレオタイプに基づく目で見られることを恐れ、その恐れに気を取られるうちに、実際にパフォーマンスが低下し、おそれていた通りのステレオタイプをむしろ確証してしまうという現象」と定義。「きちんと認識されていないけれど、ステレオタイプ脅威は個人と社会の最も厄介な問題の一部に寄与していること、しかし現実的な対策を講じると、劇的な変化をもたらす可能性がある」と主張する。


そこから、ステレオタイプの脅威として「ステレオタイプ脅威が、差別などの悪意が存在しなくても生じる可能性がある」としたうえで「社会における集団としてのネガティブなイメージに繰り返しさらされると、それが内面化され、集団の真の姿と思うようになり、悲劇的なことに自分自身もそれを自らの真の姿だと考えるようになる」と警告する。


そして。「すべてのアイデンティティはローカルなもの、つまりその環境に付随する条件から生まれる」とし、「ステレオタイプ脅威は状況依存的である」と述べる。


現状に対しては「ネガティブなステレオタイプを追認してしまうのではないかという思いが、パフォーマンスを悪化させるほどに人を動揺させる」「人は能力の上限レベルを試されるとき、ステレオタイプ脅威によるフラストレーションと、そのステレオタイプが誤りであると証明しようとするモチベーションが高まり、実力をフルに発揮することができない」「ステレオタイプ脅威は、血圧が変わるくらい不安を引き起こすのだ」「人は、自分が大切だと思う領域で、自分が嫌だと思うステレオタイプを追認するリスクにさらされると、同じことを何度も考えがち」と警告する。


では、どうするか。筆者は「状況を理解して信頼を置くための筋立て(ナラティブ)」が大事だとのべ、「脅威に対して強く警戒するナラティブを、その環境に帰属し、成功できるのだという希望的なナラティブに切り替える」ことを提唱する。


白人・黒人の対立は、日本人には理解しがたい部分があるが、筆者が「信頼関係は、わたしの苦悩そのものを縮小してくれた」「自己イメージが脅威にさらされている人に、一歩引いて深呼吸をさせ、より大きな価値のある自己認識を持つ機会を与えると、古い自己イメージの回復を封じることができる」などのコメントをするに至り、色々と考えることがあり。


何にせよ、「人間の自己防衛的な側面が、ネガティブなステレオタイプを当てはめられる見通しだけで喚起され、その知的機能を乗っ取り、実際のタスクに費やすべき能力を奪い取ってしまう」「科学研究のプロセスには一定のルールがあると思われがちだが、実際には、研究者が手探りで求めなくてはいけないときがある。そのとき役に立つのは、直感と考え抜かれた推測だ」という著者の提言は、心に刻みたい。