世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】野中郁次郎、山口一郎「直観の経営」

今年87冊目読了。一橋大学名誉教授、早稲田大学特任教授、日本学士院会員にひて、ナレッジマネジメントを世に広めた知識創造理論の権威と、哲学を専攻する東洋大学名誉教授の筆者が、共感の哲学で読み解く動態経営論を著した一冊。


前半部分は、哲学的に現象学を解説しているのだが、ここがかなり理解しづらい。読み進めると、後半の実践的な話に繋がるのがわかるのだが、これを完璧に理解するのは苦しい…なので、前半は「わからずとも、何となく概観する」くらいでもいいのかもしれない。


現代の問題として「欧米流の手法に過剰適応し、分析過多、計画過多、コンプライアンス過多などが日本企業から活力を奪っている」「形式論理でモデルを構築していったとしても、人間の理想や追求目標となる普遍的な価値観である真・善・美には決して到達できない」を挙げる。


現象学については「世界全体を、実在する物としての自然から説明する実在論と、内在する精神から説明する観念論とに二分割するには、あまりにも豊かな私たちの経験で満たされている」という立場と説明し、「私たちの感覚はもともと共感から生まれている」「第三者による評価がくだされる一人称ー三人称関係における一人称の自分ができ上がってからの共感とは、まさに我を忘れる集中した活動性の最中で生じるもの」「現在には、たったいまこの瞬間としてとらえられる現在だけではなく、過ぎ去るという過去という意味を生み出している過去把持という志向性と、直前を意識せずに予測して未来を生み出している未来予示という志向性が属している」と説明する。


そして、人間は「それとして気づく以前にもすでに意味と価値の世界を生きてしまっている」ので「いったん知的判断を停止し、知的能力をカッコに入れて使用しないでみる」ことを勧める。


戦略については「一人ひとりの人材をコストとしてではなく、知を生む存在と位置付けることから物語は生まれる」「戦略の最大の目的は、目前の矛盾や対立関係を着実に克服し、組織のビジョンを実現することにある。そのためには、単純な因果関係で物事をとらえるのではなく、そのときどきにせり出してくる出来事をダイナミックに紡いでいくパターン認識が必要」とし、「行為のなかで直面する矛盾の克服は、さまざまな可能性を秘めた現在と未来とで行われ、それをどう実現するかは、いかにタイムリーに、ダイナミックに物語り続けられるかが鍵になる」と述べて「戦略は、語り手と聴き手の相互作用のなかで、生き生きとした出来事の物語りとして展開し、実現していく生の現実。物語、すなわちモノは物語り、つまりコトとの関係性のなかで意味をもつ」と指摘する。


リーダーについては「求められるのは、①善い目的をつくる能力②ありのままの現実を直観する能力③場をタイムリーにつくる能力④直観の本質を物語る能力⑤物語を実現する政治力⑥実践知を組織化する能力」「ビジネスリーダーが、問題の本質を把握する知力を養うための行動は、①問題の状況の根本が何なのか徹底的に問う②木と森を同時に見る③仮説を立てて検証する」ことを要求する。


AIについて騒がれている現状に対しては「ダイナミックなコンテクストに応じた経験に基づく目的設定は、人間しか持ち合わせない能力」「創造力は人間の直観がモノを言い、社会的知能は社会や文化に関する豊富な暗黙知が必要で、ともにコンピュータの言葉では明確に表せない」と指摘。「AIやIoTがもてはやされる時代こそ、人間の倫理観や責任感、美意識、やり抜く力、根性などの生き方が経営の基盤になる。AIはおおいに活用すべい手段だが、自ら目的をもち、状況に即応し、新たな意味や物語りを紡ぎ出してやり抜く主体は我々人間であり続ける」と断言する。


心身の関係については「身体感覚を通して無意識にとらえられている細目や部分から、意識的に概念化されたものなどすべてを包括する母体が、心」「記憶を参照しながら知覚できる身体の反応を仮説にして理解していくのが、ダイナミックな脳の基本的な機能」「心をもっている人間は他者や環境と相互作用しながら、時と場所に応じて何に注意を払うかを決め、そのなかで主観的に、そして身体から来る感覚をもとに意味づけをしている」とする。


暗黙知については「暗黙知は、表出化、連結化、内面化というスパイラル」「暗黙的知り方とは、演繹法でも帰納法でもない、仮説生成に通じている」「フロー状態の動詞=暗黙知を、名詞=形式知としてストックすることにより、取り扱いや伝達が容易になる」「個人の暗黙知は、対話を通してその本質が言語化され、さらに磨かれて概念化されていく」と述べる。


知的創造については「組織と知識は切り離すことができず、組織の存在理由は知的創造」「知識とは、個人の全人的な信念/思いを真・善・美に向かって社会的に正当化していくダイナミックなプロセス」「チームは対を基本とし、日常の仕事のなかで全人的対話に基づく真剣勝負によってこそ、革新的イノベーションが実現できる」とする。


本質直観については「第一段階は、対象物と他のものとの類似性に知覚する。第二段階は、類似性のなかに潜む同一性を考察する。第三段階は、自由変更を駆使し、物事の普遍的な本質を洞察する」「人生は見たり、聞いたり、試したりの三つの知恵でまとまっているが、その中で一番大切なのは試したりである」「つねに真偽判定に向かって内省しながら、よりよい知の地平を世界に広げる努力をすることが、現実のよりより理解に到達するための手段」と述べる。


正直、すんなり理解するにはかなり難解。だが、体感的に理解できるな、という感じ。難解だが、「自身の体感と照らし合わせながら読む」という気持ちで、丁度いいのかもしれない。読んで、実践して、また読んで。そんな使い方かもしれない。