世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】安斎勇樹、塩瀬隆之「問いのデザイン」

今年82冊目読了。株式会社ミミクリデザインCEOと、京都大学総合博物館准教授の著者が、創造的対話のファシリテーションのポイントと実例をまとめた一冊。


最近、SNSで繋がっている友達の中でしょっちゅう取り上げられていた本なので「これは面白いんだろうな」と読んでみたところ、なるほど、これは非常に頭が整理される中身だ。


なぜ、問いかけることが大事なのか、については「無意識に自動化された認識は、さらに新しいことを学習する場面において、変化の足かせになることがある」「互いの認識や前提にズレがあったまま関係性が固定化されてしまうと、その溝を乗り越えることは、さらに容易でなくなる」と問題提起する。


問いについて「人々が創造的対話を通して認識と関係性を編み直すための媒体」と定義したうえで、問いの基本性質を「①問いの設定によって、導かれる答えは変わりうる②問いは、思考と感情を刺激する③問いは、集団のコミュニケーションを誘発する④対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省される⑤対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性は再構築される⑥問いは、創造的対話のトリガーになる⑦問いは、創造的対話を通して、新たな別の問いを生み出す」と述べ、新しい関係性を構築するステップを「①溝に気づく②溝の向こうを眺める③溝の渡り橋を設計する④溝に橋を架ける」と読み解く。そのうえで、問いのデザインの手順を「①課題のデザイン:問題の本質を捉え、解くべき課題を定める②プロセスのデザイン:問いを投げかけ、創造的対話を促進する」とする。また、「創造的対話の場を生み出すには、参加者らの暗黙の前提を自覚させ、これを揺り動かして払拭させるような強い問いを投げかけることが必要」とする。


そして、どのように問題を捉えるか、ということにつき、課題設定の罠として「①自分本位②自己目的化③ネガティブ、他責④優等生⑤壮大」を挙げて、問題を捉える思考法として「①素朴志向②天邪鬼思考③道具志向④構造化志向⑤哲学的思考」を推奨する。本質を観取するために「①体験、わたしの確信に即して考える②問題意識を出し合う③事例を出し合う④事例を分類し名前を付ける⑤すべての事例の共通性を考える⑥最初の問題意識や疑問点に答える」という手順で進めるべき、と述べる。


課題を定義する手順としては「①要件の確認②目標の精緻化③阻害要因の検討④目標の再設定⑤課題の定義」とし、目標を精緻化するためには「①期間によって、短期目標・中期目標・長期目標にブレイクダウンする②優先順位をつけて、段階的に整理したり、複雑な目標を分割する③目標の性質によって、成果目標・プロセス目標・ビジョンの3種類に整理する」べきと述べる。他方、目標の阻害要因として「①そもそも対話の機会がない②当事者の固定観念が強固である③意見が分かれ合意が形成できない④目標が自分ごとになっていない⑤知識や創造性が不足している」を挙げ、目標を再設定するリフレーミングのテクニックとして「①利他的に考える②大義を問い直す③前向きにとらえる④規範外にはみ出す⑤小さく分割する⑥動詞に言い換える⑦言葉を定義する⑧主体を変える⑨時間尺度を変える⑩第三の道を探る」とまとめる。良い課題の判断基準としては「①効果性②社会的意義③内発的道義」が大事だとする。


このほかにも、問いの深さを決める変数として「問うためにどれだけの視点が関わるか、人によって出す答えがどれだけ多様になるか、仮の答えをだすためにどれだけ時間が必要か」であったり、ファシリテーターのコアスキルとして「①説明力②場の観察力③即興力④情報編集力⑤リフレーミング力⑥場のホールド力」と整理するなど、なるほどと思わされる。


問いということだけでなく、人間の行動特性への洞察も当然ながら鋭い。「人は、問題状況が自分にとっての痛みを伴う場合には特に、問題の設定の矛先を目の前の痛みの解消に焦点化しがち」「当事者にとって納得のいく目標は、必ずしも最初に決められるものではない。また、ある時点の認識では納得していたはずの目標が、試行錯誤の過程で認識そのものが変容し、目標が変更されることは、学習し変化を続ける個人や組織にとって、ごく自然な現象」「予期せぬ事態に即興的に対応するためには、無理をしたり、頑張ろうとしたりしないことが必要。目の前のトラブルをトラブルとして拒絶し、ねじ伏せようとしないこと」などは、非常に役に立つ。


非常にわかりやすく整理されているものの「言うは易く(まとめるのは難しいが…)、行うは難し」。とにかく、留意しながら実践で磨いていくしかなかろう。非常に良書で、ぜひ一読をお勧めしたい。