世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】帚木蓬生「ネガティブ・ケイパビリティ」

今年80冊目読了。福岡県でメンタルクリニックを開業する精神科医にして作家でもある筆者が、答えの出ない事態に耐える力の大事さを説く一冊。


途中、筆者のこだわる世界に対する熱量が暴走して、読むのが疲れる部分もあるが(苦笑)、基本的にはなるほどと納得する部分多数。


ネガティブ・ケイパビリティという聞き慣れない言葉について「論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力」「他の人間がどう考えているかを想像する力に直結する」「ヒトと自然の深い理解に行きつくには、不可思議さや神秘に対して拙速に解決策を見出すのではなく、興味を抱いてその宙づりの状態を耐えるしかない。そうやって得られた理解は、その本人にとっての地図となり海図になる」と解説する。


また、現代の風潮にも警鐘を鳴らす。「問題解決があまりに強調されると、まず問題設定のときに、問題そのものを平易化してしまう傾向が生まれる。単純な問題なら解決も早いから。このときの問題は、複雑さをそぎ落としているので、現実の世界から遊離したものになりがち」「緊急事態に備えても、マニュアルがあれば、もう脳はあれこれと悩まなくてすむ。すべてが分かったものとして、一大事のときも失態なく切り抜けられる。ところがマニュアルにない事態が起こったとき、マニュアルに慣れ切った脳は思考停止に陥る」「教育とは、問題を早急に解決する能力の開発だと信じられ、実行されてきた証拠」と断罪する。


「言葉は奥深いところから発せられないと、表面で矢尽き刀折れるという実感」「誰でもひとりで苦しむのは、耐えられない。誰かその苦しみを分かってくれる、見ていてくれる人がいると、案外耐えられる」「人は不可解なものを突き付けられると、何とか意味づけしようとする。その際によく起こるのが希望の付加。しかし、うつ病にかかると、なんでも悲観的に考えるようになり、脳の機能、思考に、真暗なバイアスがかかってしまう」のあたりの記述は、なんとなく体感的に理解できる。


筆者は、最終的には「創造行為は、その本人に癒しをもたらすと信じられている」「ネガティブ・ケイパビリティが最も自戒するのは、性急な結論づけ」「崇高なもの、魂に触れるものというのは、ほとんど論理を超越した宙ぶらりんのところにある。むしろ人生の本質は、そこにあるような気がする」「寛容は大きな力は持ちえない。しかし寛容がないところでは、必ずや物事を極端に走らせてしまう。この寛容を支えているのが、実はネガティブ・ケイパビリティ」と主張する。


その大事さを語ってはくれているものの、どうやって「寛容を涵養するのか?」というところが抜けているため、なんとももどかしさが残る。しかし、手法論ではなく、「大事なものは大事」ということ、なのかもしれない。モヤモヤする感を含め、味わうべき一冊なのかもしれない。