今年70冊目読了。ハーバード大学ケネディ行政大学院教授の筆者が、行動経済学でジェンダー格差を克服することを提唱する一冊。
人間の行動特性として「バイアスは、私たちの頭の中に根を張っているだけでなく、制度や慣行にも根を張っている」「人は誰しもバイアスと無縁ではない」「人は他人のバイアスにはすぐに気づくが、自分のバイアスは見落とす」「人は、頻繁に、そして多くの場合は自分でも気づかずに間違いを犯す」「人はある個人について判断するとき、その人物が属する集団の平均を基準に考える」「人は、過去の成功パターン、慣習、業界の規範などに照らして、自分のおこなっていることを理解しているつもりでいるが、エビデンスを検討しなければ真実はわからない」「人は一貫した講堂を取りたがる性質があるため、自分がすでにもっているバイアスのままに判断をくだしがち」と述べる。
女性が生き生きと活躍できない背景について「女性たちが能力と好感度のトレードオフに直面している」「文化において好ましいとされる資質は、男性のステレオタイプと結びついている場合が多い」「女性は、男性より曖昧さを避けたがり、しかも自信がない。推測で答えないだけでなく、積極的に発言したり、意見を述べたりもしない」と指摘する。
では、ジェンダー平等のためにどう取り組むべきか。筆者は「理性的な判断を促すために、『反対を考える』『自分の内部の集合知を活用する』といった戦略の訓練を積ませる」「女性に発言や交渉を促す。特に、他人のために交渉するよう促す」「クオータ制で女性がリーダーシップを振るう姿を見せて、女性の自信を強める」「ランキングをうまく活用して、人や組織が互いに競い合いながらジェンダーの平等を高めるように促す」「さまざまな視点と専門性の持ち主が互いに補完し合えるように、突出した能力はもっていなくても多様なメンバーを集める」「情報は、目につきやすく、わかりやすく、比較対象を示すようにする」と提言する。
行動デザインの有用性について「DESIGN、即ちD(data、データ)、E(experiment、実験)、SIGN(signpost、標識)」「研修は能力構築へ、人材マネジメントは直感きらデータと仕組み作りへ、競争の環境は不平等なものから平等なものへ、ダイバーシティひ数合わせから成功の条件づくりへ」と述べ、このあたりは納得できる。
最初は、行動の気づかないバイアスなどを細かく実例入りで紹介しており、とても興味深いと思って読み込んだ。しかし、「じゃ、どうすればいいの?」という肝心な部分に入っていくと、いきなり「当然だし、誰も反論できないけど、取り組むのが難しい」事ばかり提唱され、一気に読む気が萎えて、拾い読みになってしまった。期待外れ感まんまん。これ読むなら、中原淳「女性の視点で見直す人材育成」の方がよほど実践的だ。
一点、「娘がいる男性はジェンダーの平等を重んじる傾向がある」については、実に納得。でも、解決を求めるのであれば、お勧めできない。あくまでバイアスの罠を知る参考書止まり、だな。