世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】梅棹忠夫「日本文明77の謎」

今年64冊目読了。京都大学教授を経て国立民族学博物館館長を務めた著者が、気鋭の執筆者たちに日本文明を理解するためのキーワードを与えて書かせた原稿を編集した一冊。


1988年という、バブルど真ん中の浮かれ気分が背景にあるため、日本の今後については「それってどうよ?!」と思うくらい楽観的なことも書かれているが、歴史的経緯が書いてあるあたりは今なお生き生きと感じることができる。


日本の国土的特徴については「海上の適当な距離は、大陸からの侵略、大量移民などの圧力をよわめ、学問、技術などの情報をとりいれるためにはちょうどよかった」「夏と冬のきびしさははげしいものの、一般的に温暖な気候で、西ヨーロッパや北アメリカ海岸部などと共通しており産業の発達、文化の向上といった、近代社会の実現のための自然的必要条件のひとつ」と述べる。


言語的特徴については「島国であるという制約から、多民族と直接の接触をほとんどもたず、あたらしい思想や技術の導入は、主として書籍をとおしておこなった。情報の受け入れには読解が必要だったが、情報をだすための作文をすることは必要でなかった。その態度は現代の英語にまでつづいており、『話せない』が『読む力』は非常に高い日本人がおおい」「日本の文書は、いっかんして民間の手でつたえられてきた」「書物がひろく庶民のあいだに浸透するについて、貸本屋のはたした役割はちいさくなかった。貸本屋は、いわば今日の図書館の役割をかねていた」とする。


思想、気風については「鎖国政策の結果、日本人の海外への関心がうしなわれ、俗に島国根性といわれるような国民性が形成された」「全国、どこの寺子屋で、どの先生からまなぼうと、ほぼ同様の教育をうけられるというシステムが成立していた。それがまた、個性的で創造的な教育を阻害することになり、その結果、せっかくの国民的能力を有効に発揮できていない」「今日の日本企業には、会社の一大事に社員一同心をあわせて奔走するといった気風があふれている。それは、藩という組織体からうけついだ伝統である」「庶民がこのんで旅にでるという現象は、江戸時代以来、今日もかわるところがない。しかも集団で旅行する傾向が顕著なのも、江戸時代の庶民の旅と同様である。いまだに観光地は、神社やお寺とその周辺である」「うつくしい日本の風土が、このような(地震が多発するような)不安定な大地のうえにあることは、日本人の精神に反映しているのかもしれない」と分析する。


今後の課題については「多元的都市機能の東京への過度な集中は、他の都市の活力をうばい、それは日本という国全体の多様な発展にも、けっしてプラスにはならない」「憲法の理念はタテマエである。尊重すべきタテマエである。しかし、その理念の実体化のためにも、必要なのは憲法の運用における現実主義的態度」「情報をつくりだす側面では、これまで日本は情報のうけ手の側にたつことがおおく、おくり手としての役割はかぎられたものであった。しかし今後アジアの先進国のひとつとして、おくり手としての役割もはたしてゆかねばならない」など、30年以上経ってもまるで解決されず、むしろ悪化しているように感じる部分を鋭く指摘している。


そして。コロナ禍の真っただ中にいながら読むと「心のゆたかさへの回帰が、世界の文明に大きく寄与するだろう」の言葉が重く響く。


すべて肯んじえられるわけではないが、ひとつの見方を教えてくれる、という観点で面白い一冊だ。これ、30年以上前に書かれてから、日本人はそこを深掘りできているのか?という疑念すら生まれてくる…