世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】レイ・カーツワイル「シンギュラリティは近い」

今年63冊目読了。人工知能の世界的権威である筆者が、人類が生命を超越するときについて書き表した一冊。


正直、とても複雑・難解で、自分が文系の限界を到底超えられないことをまざまざと突きつけられた…まるで理解したとは言えない読後感。これは、単純に読み手である自分の力不足だ…


ということで、筋書きも何も読み込めず。基本概念の部分で気になったところは「シンギュラリティとは、テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来」「人間が生み出したテクノロジーの変化の速度は加速していて、その威力は、指数関数的な速度で拡大している」「未来を線型的に見るせいで、短期的に達成できることは必要以上に高く見積もるのに、長期的に達成されることは必要以上に低く見積もってしまう」「ほんの短い期間だけを捉えて経験するなら、指数関数的な傾向も線型に見える」「指数関数的な傾向は、いずれ限界に達するのは避けられない」のあたり。


進化についても、実に独特な読み解き方をする。「進化の6つのエポックは、順に物理と科学、生命、脳、テクノロジー、テクノロジーと人間の知能の融合、宇宙が覚醒する」「テクノロジーの進化においては、人間の発明の才と、変わりやすい市場条件とが結びついて、イノベーションが前進を続けている」のあたりは、考えさせられる。


知能についての言及も鋭い。「非生物的な知能の大きな利点は、機械どうしは知識を簡単に共有できる」「チェスの問題を解くのに、人間はパターンを認識することで解いていくのに対して、機械は、指しうる手とそれに対する手を網羅する巨大な論理的ツリーを構築する」と述べる。


しかし、筆者も述べるとおり「わたしの精神のファイルをベースとする人物、すなわちいくつものコンピューティング基板に転々と移り住み、どの思考媒体よりも長生きするその人は、本当にわたしなのだろうか」「意識の実在を決定的に裏付ける客観的な検証法は、ひとつとして存在しない」ということにもなる。科学と哲学・倫理というような世界の対立に入り込んでしまい、「シンギュラリティの根底にある転換は、生物進化の歩みを一歩進めるだけのものではない。われわれは生物進化の一切をひっくり返そうとしているのだ」という主張も納得である。


本当に、科学技術の発達が空恐ろしくなってくる。その中で、人間はどこまで人間か。筆者が、脳が従来のコンピュータと異なる点として挙げている「脳の回路はとても遅い。それでも脳は超並列処理ができる。脳はアナログとデジタルの現象を併用する。脳は自身で配線し直す。脳の細部のほとんどはランダム。脳は創発的な特性を用いる。脳は不完全である。われわれは矛盾している。脳は進化を利用する。パターンが大切だ。脳は深く絡み合っている。脳には、各領域をまとめるアーキテクチャがある」のあたりが、カギになるような気がする。


筆者の未来像はあまりにも楽観的過ぎると感じるが、今後どうなるか、ということについて大いに参考になる一冊。理系の人は必読、文系でも頑張って拾い読みする価値はある。