世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤田一照、魚川祐司「感じて、ゆるす仏教」

今年62冊目読了。オンライン禅コミュニティ「大空山磨塼寺」を開創した禅僧と、仏教の教理と実践を学ぶ著述・翻訳家の2人が、これからの仏教を提言する対話を繰り広げる一冊。


かなり興味深いやり取りが繰り広げられるが、これ、本当に難しい本だ。というのも、読み手の「思惟、実践」のレベルによって読み解きレベルが決まってくる、すなわち「本の良し悪しは、自分の良し悪しが決める」という、かなり本質的な一冊。


人間の特性として「私がプラスに評価するものは自分のものにして、マイナスに評価するものは眼の前から除外するというのが、基本的な行動の構造、パターン」「何かを追いかけると必ず緊張が生まれる」としたうえで「考えるモードと感じるモードは両立できない」「『命令して、コントロールする』モードはもう嫌というほどトレーニングしてきているから、もう一つの別な『感じて、ゆるす』モードも稽古しましょうよ」と提言する。


そして、「ガンバリズムのよくないところは、やりきれればやりきれるほど、ナルシシズムが強くなる」「ナルシスティックな世界に閉じこもらないためには、思い通りにならない連れ合いや、子供や、猫といった他者に身近にいてもらう必要がある」「感情に圧倒され、飲み込まれて動揺するのが凡夫であるとすると、感情の動揺をきちんとホールドして、包摂していられる人というのがブッダ」「悟ってから初めてきちんと瞑想ができるんじゃないか」「からだはコントロール、支配の対象ではなく、むしろ、学びのリソース、まだこちらが知らないことを教えてくれる尊敬すべき先生で、感覚はその先生からのありがたいメッセージ」「座禅は人を熟成させる触媒であり、人生の醸造反応過程をスピードアップする」と、生きるという壮大な修行についての考え方を少し切り換えるような読み解きを行ってくれる。


生きること、修行することについては「仏道修行は人間性の乗り越えであり、ある意味では、人間性の未熟な状態から出発してその完成を目指す営みでもある」「簡単にケリをつけてしまうと、非常に大事な『求めたら得られないが、求めなかったら何も変わらない。さあ、お前はどうする?』という基本的公案を回避してしまうことになる」「クエスチョンマークのない世界に安住すること、そこに居着いてしまうことが『悟り』なのではなく、そのクエスチョンマークとともに生きていく」と述べていて、感覚的にぼんやりは見えるものの、到底ガッチリつかんだという手ごたえはない。おそらく、これが自身の修行のレベルと読み込みの連動、ということなんだろうなと感じる…


そのほか、面白いなぁと感じたのは「俺が死ぬときは誰にも代わってもらえない」「日本語というのは主観的な言語。対話する相手との上下というか、位置関係が現れてしまう」のあたり。


興味のない人には意味不明な文言の羅列に感じられるだろう(←そんな人、本書を読まないか…)。そして、自身の修練によってその深淵が見えてくる。不思議な魅力のある一冊だ。