世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】田坂広志「人生で起きること、すべて良きこと」

今年53冊目読了。多摩大学大学院教授にして、内閣官房参与も務めた筆者が、逆境を越えるこころの技法について説く一冊。


5年前に読んだ良書で、読書会のテーマが「切り換える」だったことから、このコロナ禍の状況で気持ちを切り換えるのに最適な一冊、と思ってお薦めし、再読してみた。やはり、良書は期間を置いても良書だ。そして、感じることがやはり変わってきている。


「人生において『逆境』に直面したとき『人生で起こること、すべて良きこと』と思い定めると、必ず、道は拓ける」は、コロナ禍の今だからこそ、心に迫る一言だ。「この出来事には、何か意味がある、というその感覚こそが、逆境を越えるこころの技法を身に着けていくための、大切な出発点」と思い定めることで、そもそもの問題に取り組む自身のあり方を変容させることができると感じる。


そして、人間は物語として捉える生き物である以上「何が起こったか それが、我々の人生を分けるのではない 起こったことを、どう『解釈』するか それが、我々の人生を分ける」というのも、自分の人生、事実に対する適切な意味づけができるかどうか、という「心のあり方」が問われているように感じる。まさに、著者が述べているとおり「『この逆境が与えられたのは 大いなる何かが、自分を育てようとしているからだ』その感覚を心に抱き、その最も肯定的な『逆境観』や『解釈力』を掴んだとき、我々の中から、想像を超えた『強さ』と『生命力』が現れる」のだろう。まさに、V・E・フランクル博士が仰るとおり「自分が人生に何を望むかではない。人生が自分に何を望むかだ」ということだろう。


なかなか概念的で掴みづらいかもしれないが「エゴは捨てられない。エゴは、大きなエゴへと育てていかなければならない」というのも、正鵠を射ている。小我と大我、あるいはU理論で言うところの「小さな自己(self)」と「大きな自己(SELF)」ということだ。「厄介なエゴの動きに処するこころの技法は、ただ一つ。静かに見つめる。それだけ」ということで乗り越えるというが、これがなかなか自己鍛錬が必要で…「人間、自分が本当に強くないと、感謝ができない」のだ。


「我々は、幸福な出会いだけによって人間として成長しているわけではない。不幸な出会いと思える出会いを通じても、人間と人生について深く学び、成長している」。そこに立ち、おのれの成長を通じて自らの人生を生き切りたい。そう思わせてくれる。


5年前に読んだ時よりも、だいぶ体感として掴みつつある感覚はある。だが、まだまだだ。良書は時を置いて繰り返し読むと、さらに理解が深まる。それを教えてくれる。