世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】佐滝剛弘「世界遺産の真実」

今年46冊目読了。NHKの番組制作ディレクターにして、世界遺産検定マイスターを保有する著者が、世界遺産への過剰な期待、大いなる誤解について書き記した一冊。


ブックカバーチャレンジが回ってきたので、「世界遺産から何か一冊…」と思って選んだ本。初読のときには、世界遺産検定マイスター試験の前に「2,000字の論文対策」として読んだので、素直に読書として読んだというより知識や考え方ベースで読んでいたので、今回、この機会に素直に読んでみた。


2009年執筆の書籍であるが、その課題は2020年においても全く変わっていない、どころか加速的に悪化していると言える(皮肉なことに、新型コロナウィルス(COVID-19)によってオーバーツーリズムだけは圧倒的に解消されている)。数の多さに起因する保全の困難性、統一した基準とは思えない(※一応、統一的な判断基準はあるのだが)ような類似物件の登録・非登録のばらつき、世界遺産を取り巻く環境の極端な俗化、世界遺産登録に絡む不透明な金銭のやり取りの問題点など、10年間で何一つ解決されたとはいいがたい。


他方、世界遺産が果たす役割についても、依然、大きなものがある。筆者が指摘しているとおり、足元の文化の資産価値を見直す機会の提供、異なった世界遺産をつなぎ合わせる効果、などはますますその役割を増しているといえる。


2009年には、「観光の21世紀が頼りにする世界遺産」と評価されていた。しかし、コロナ禍においては、移動制限によって観光は壊滅的な打撃を受けている。世界遺産条約が締結された1972年からもうすぐ50年。半世紀を生き延び、人類の宝を未来に引き継ぐ、という役割を観光業と密接に結びつくことで果たしてきた世界遺産もまた今、大きな曲がり角を迎えている。


先日、世界遺産マイスタープロジェクトで「コロナ後の世界遺産」についても考えてみたが、そこに至るまでの経緯もしっかり押さえておく必要はある。過去・現在があってこその未来であるから。その意味では、今、再読したことには価値を感じる。


世界遺産の学び直しも、ブックカバーチャレンジを契機とした書籍の読み直しも、不可欠なことだと感じた。やはり、人間は「忘れる生き物」だなぁ…