今年35冊目読了。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授にして、アフェクティブ・ブレイン・ラボ所長の筆者が、説得力と影響力の科学について書き記した一冊。
〈お薦め対象〉
人を説得する必要のあるすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★
自分の問いは3つ。
『人がつい取ってしまう行動特性は?』には「言い争いや議論になると、私が正しくあなたが間違っている攻撃材料を突きつけたくなる。無意識のうちに流行を追い、他人をまねるが、いったん決断したり意志を固めたりすると、違う考えを取り入れるのはむずかしい。情報不足は人を不安にするが、ギャップを満たすことで人は満足感を覚える」。
『どのように人と向き合うべきか?』には「相手にコントロールをゆだねる、もしくはコントロールしている気持ちにさせる。積極的に状況を再構築し、ストレス下でもチャンスに狙いを定める。相手の心の状態は、自分の助言への反応の仕方に影響を及ぼすと理解する」。
『人の考えや行動を変えるためにすべきことは?』には「意見の食い違いよりも共通点に注目する。康動揺性とポジティブな結果を組み合わせる。少しばかりの責任を与え、選択肢があることを思い出させる」。
体感として、実によく理解できる。結局、事実がどうこうよりも、自分の考え、信念に一致するかどうか、でしか人は行動しない。「人は快楽へ向かって進み、苦痛から遠ざかる」「私たちの信念を形作っているのは欲求であり、意欲や感情を利用しないと考えを変えない」「他人の意見を手本にしたり、まとめたり、引き出したりするとき、まず立ち止まることを忘れない」というあたりは、頭に置いておく必要があろう。
そして、コロナが席巻する今の世界情勢において「悲劇的な知らせがほぼ確実にならない限り、人は不快な情報を避け続ける」という指摘は、実に重い。科学的に人間の特性を押さえておいてもなお、人間は行動の罠に嵌まる。せめて、その「嵌まり込んでいる」ことに気づくことができれば、そこから脱出することもできるはずだ。人間の叡智に光を当てる点において、お薦めの一冊だ。