世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】牧久「暴君」

今年34冊目読了。日経新聞代表取締役テレビ大阪会長を経たジャーナリストが、新左翼松崎明に支配されたJR秘史を描き出した一冊。


革マル派の基本戦略として「味方の力量が弱小な時代は敵の組織に潜り込み、組織内部の意識の違いを乗り越えて変革し、敵組織を内部から食い破る」「内部の敵対勢力は先手を打って積極的に排除し、闘う組織を防衛する」とする。


そして、国鉄時代からの当局・会社側の対応の問題の根源として「この場だけを凌げばいいという仕切りをすると、問題はずっと尾を引くことになる」「自分の身の保全を優先するから、力あるものに従うしかない、迎合するしかなかった」「JR東日本の松田社長以降の経営陣は、時間をかけて革マル派の牙を抜くという方針を貫き直接の対決を避けてきたが、その結果、松崎明の影響から脱するのに30年以上もの長い時間が必要となった」と、その問題点に切り込む。


他方、革マル派のリーダーである松崎については「松崎が対外的に表明した革マル派からの転向は、まさに世の中を欺くためであって、彼はマルキストとして革命家の信念を生涯貫き通した」としつつも、途中からの傲慢な振る舞いに対しては「組織の体質はリーダーの資質によって決まる。いかに高邁な理論をもっていても、資質に欠けるリーダーがトップになっている組織は、組織の中に自浄作用がなければ堕落していく」と厳しく糾弾する。


圧倒的なボリュームで、生々しく会社側・組合側の対立と思惑を描き出していく様は、本当におどろおどろしい。人間という生き物の業の深さを強く感じさせる。そして、それがJR東日本という大企業において労使闘争という形で繰り広げられていた事実を突きつける筆致力はすさまじい。


筆者の残したコメントが、令和の時代において重く響く。「平成という時代は、戦後昭和からの脱却を目指したにも関わらず、結局はその清算も総括も、実質的には成し得ず、戦後昭和の影を30年にわたり引き摺り続けた時代だったのではないか。それが象徴的に表れたのがJRの裏面史だったと言えよう。天使と悪魔というふたつの顔を持った男・松崎明は戦後昭和の影を彷徨い続けた妖怪だったと結論付けるしかない」という警句を受け、どのように令和を生きていくべきか。非常に考えるところの多い一冊だ。