世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】大沢武志「心理学的経営」

今年29冊目読了。日立製作所リクルートを経た人事測定研究所代表取締役社長が、個をあるがままに生かす経営を提唱した一冊。


1993年10月29日に刊行された本であり、心理学の基本としている部分がやや古臭い感は否めないが、その求めるところは現代にもマッチしている。というか、日本人そして日本企業はこの数十年何をやっていたのか…と暗澹たる気持ちになる。


組織が無視している点について「人間の行動は、いわばノイズとしてのムダな情緒や感情を規定にもつところにその本質がある」「力によって強制しない限り、人びとが現実に従っている拠り所となっているのは、ルールの方ではなく、暗黙のうちにつくられたお互いの合意であり、そこから生まれた規範のほうである」「環境要因は不満を防止する役割しか与えない」と指摘する。


続いて、組織の活性化について「環境の変化に適応するということは、本質的には、それ以前の環境に適応していた自己を破壊することからはじめなければならない」「活性化の原点は、混沌とした無秩序でかつ不安定な状態のなかにあり、そこから秩序化へ向かって外部環境に働きかける過程に、動的な活性化された状況が見いだされるのである」「安定の自己否定、既成の秩序と現状の価値の自己否定、それらによってもたらされる混沌のなかにこそ活性化の土壌がある」と見抜いている。こんな言説があったにも関わらず、なぜ日本はこんな「失われた20年以上」を過ごしていたのだろうか、そして、自分も一介の労働者として生きてきたということに痛恨の念を禁じ得ない。


今後の組織については「人間の行動変容を意図した教育的働きかけを成功させる要因のなかで、心理学的にみて最も基本的な要因は動機づけ」「個人の求める価値と組織の目標とをいかに統合するか、多様化した個人的な価値を受け入れ、あるいはそれらを積極的に生かすことを前提に組織のあり方を考えるのが、これからの経営の方向である」「心理学的経営にとって大切なのは、キレイごとではすまない現実の世界でアンビバレントなコンフリクトを受容し、それを乗り越えるヒューマニズムではないだろうか」とする。いや、全然今もって日本ではできてない…愕然とさせられる。


モチベーションについての重要なポイント「自己有能性、自己決定性、社会的承認性」、フィードバックの効用を高めるためには「進歩が中程度に遅い者に、早めに、達成欲求が高い場合に」与えるべきとする、などは、21世紀においても留意すべきところだと感じる。


古い本だが、読む価値はある。「仮面をかぶり、管理職を演じ続ける中年管理職ほど、そのことによって人間的に大事な何かを抑し殺しているとすると、訪れる破綻の度合いも大きくならざるを得ない」という事態を避けるためにも…