世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】平野啓一郎「空白を満たしなさい」

今年27冊目読了。多才な著者が、死生感をガツンと浮かび上がらせる小説。


幸福については「家族を養うことが幸せだって!違います。そう思い込めること自体が幸せなんです」「自分の価値観と自分自身が合致する。裏を返せば、そうじゃないなら、人間は永遠に不幸だ」「結局人間は、自分よりも不幸な誰かがどうしても必要。さもなくば、不安で気が狂いそうになる」という言葉が深く刺さる。


そして、そこからの流れで「今の時代、人に誇れる本物の幸福は、お金でも運でもなく、疲労で手に入れたものじゃないか。僕は幸福でした。でも、僕はその分、疲れてました」から「疲労が注がれるコップは一個なんです。会社で、これくらいなら耐えられると思っていても、実はコップには、家での疲労が、まだ半分くらい残っているかもしれない。そうすると、溢れてしまいます」と繋ぎ、現代社会の構造に深く絡みつく疲労を抉る。


また、人間の苦悩についても、「誰も、人間の苦悩する権利を否定することは出来ません」「苦悩を否定された人間は、悲劇的な方法で、それを証明するように追い詰められます。多くの場合、我々は、決して否定できない深刻な事態が生じてから、初めて彼の苦悩を知るのです」と、本質を突く。


死については「死者は無抵抗に、生前の印象的な出来事に象徴されます。それはなるほど、何をしたかということより、したことのうちで、何が目立ったかの問題です」「死者が残すのは、記憶、記録、遺品、遺伝子、影響」「遺伝子と影響は、自分から遠ざかっていく。逆に、記憶と記録と遺品は、中心を求めて自分を目指す」あたりが心に残る。


ネタバレは嫌いなので、詳細には立ち入らないが、次々と発生する出来事、そして色彩豊かに描かれる登場人物、スピーディーな展開。思わずガンガン読み進んでしまった。そして、色々考えさせる。これは、本当に面白い小説だ。