世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】孫崎享「戦後史の正体」

今年24冊目読了。駐ウズベキスタン大使、駐イラン大使をへて、防衛大学校教授を務めた筆者が、これまでほとんど語られることになかった「米国からの圧力」を軸に日本の戦後史を読み解いた一冊。


これは、ものすごく読みごたえがある。日本は親米国家、などではない。「戦後の日本外交を動かしてきた最大の原動力は、米国から加えられる圧力と、それに対する自主路線と追随路線のせめぎ合い、相克だった」と喝破する。


欧米の基本的な行動パターンとして「植民地から撤退するときは、多くの場合、あとに紛争の火種をのこしていく。かつての植民地が団結して反対勢力になると困るから」「欧米が植民地支配をするときは、よくその国の少数派と手を組む。主流派は、別に外国と手を組まなくても支配者になれる。でも少数派は違う。外国と手を組むことではじめて、国の中心に進出することができる」「戦後の歴史を見ると、一時期、米国に寵愛される人物がでる。しかし情勢が変化すると、米国にとって利用価値がなくなる。そのとき、かつて寵愛された人物は『米国にとって自分は大切なはずだ』と考えて、新たな流れに気づかず着られるケースがきわめて多い」「米国は歴史的に、国際的な約束より自国の決定が優位に立っていると考えてきた国。国際的な約束を守ることが自分の国に有利な時には、国際的な約束を守り、他国にも守るよう圧力をかける。しかし、自分の国が不利になると、国際的な約束を破って行動する」と、なるほど指摘されると納得せざるを得ないことをバンバン指摘する。


敗戦から、サンフランシスコ講和条約までについては「1945年9月2日の降伏は、米国の言うことは何でもしたがいます、というのが条件」「占領当時、米国は日本経済を徹底的に破壊する。現在の私たちが常識としているような寛大な占領だったわけでは、まったくない。その方針が変わるのは冷戦が始まり、日本をソ連との戦争に利用しようと考えるようになってから」としたうえで、「吉田首相の戦争中の対米追随路線は、しかたなかった面もある。問題は彼が1951年の講和条約以降も首相の座に居座りつづけたこと。その結果、占領中の対米追随路線が独立後もまったく変わらず継続され、むしろ美化されて、ついには戦後60年以上もつづくことになってしまった。ここが日本の最大の悲劇」と述べる。


また、冷戦後については「米国は今後も世界に大規模な軍事作戦を展開するつもりで、もし日本がこの枠外にいて、ただ経済に専念した国になると、日本の経済力が強くなりすぎる。その結果、日本をどう米国の軍事戦略に組み込み、お金を使わせるかが重要な課題」「9.11移行、紛争の平和的解決、国際法の順守、人民の同権および自決の原則を尊重する考えは、米国の世界戦略のなかにはない。とくに民主化、市場化をめざす国と、めざさない国とは同じにあつかえないとして、敵と味方を厳しく分ける」とズバリ切り込む。


そして、日本のふがいない対応の原因として「米国の情報部門が日本の検察を使ってしかける。これを利用して新聞が特定政治家を叩き、首相を失脚させる」「日本のメディアや学会は、不都合な事実には反論しない。あたかもそれがなんの意味も持たないように黙殺する」「ひとたび自主独立の精神を喪失すると、ふたたびとりもどすのがいかにむずかしいか」「日本の言論界は、たとえ正論でも、群れから離れて論陣を張れば干される。大きくまちがっても群れの中で論を述べていれば、つねに主流を歩める。そして群れのなかにいさえすれば、いくらまちがった発言をしても、あとで検証されることはない。」とする。哀しいかな、これもまた鋭く正鵠を射ているので、ぐうの音も出ない。


筆者の考えである「日本には日本独自の価値がある。それは米国とかならずしもいっしょではない。力の強い米国に対して、どこまで自分の価値をつらぬけるか、それが外交だ」「米国からの圧力はけっして一枚岩ではないし、合理的で長期的な展望にもとづくものでもない。だから米国から不当な圧力をかけられたときは、ひとまずNOといって、風向きが変わるのを待つ策がある」「国際情勢が変われば、米国の対日政策も劇的に変わる。だから、それが変わったとき、その変化をどうやって的確にとらえ、自国の利益にとりこむかをつねに考えておく必要がある」は、今まさに日本が失っている価値観、姿勢であり、非常に重く響いている。


歴史は書きたい人間が書きたいように書くものであり、それに踊らされずに、大きな流れを見抜く必要がある。それを、この本は痛切に教えてくれる。21世紀を生きる日本人であれば、必読の書と言えよう。超おすすめしたい。