世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】田坂広志「使える弁証法」

今年22冊目読了。多摩大学大学院教授、日本総合研究所フェローの筆者が、IT社会の未来をヘーゲルを理解することで見通すという一冊。


もともと田坂先生の本は好きなので、論旨はおおむね理解しているが、やはり改めてこのテーマで読むと、その慧眼に恐れ入る。「論理思考に向かうと、必ず、直観力、洞察力、大局観が働かなくなる。だから、森全体を見る。そして、森全体を見るための、最も優れた方法が、哲学的思索」「弁証法を学ぶと身につくのは、洞察力、予見力、対話力」という原則を述べる時点でしびれる。


社会の流れの読み方については「物事が発展するとき、それは、直線的に発展するのではない。螺旋的に発展する。螺旋的発展とは、単なる復活や復古ではない。懐かしいものが、さらに便利になって戻ってくる」「進化の本質は、多様化である」「キーワードが忘れられたとき、社会において、量から質への転化が静かに深く起こり始める」としたうえで、「螺旋的発展において、何が復活してくるのかを、読む。合理化と効率化の中で、何が消えていったのかを、見る。その段階で、それがなぜ消えていったのかを、考える。新しい技術や方法で、どうすれば復活できるかを、考える」と結論付ける。


物事の捉え方については「現実に世の中に存在したものには、必ず意味がある」「物事は、否定の否定により発展する」「量が増大し、一定の水準を超えると、質の変化が起こる」と述べる。


弁証法の考え方の真髄として「弁証法においては、対立し、争うかに見える2つのものが、ある意味で互いに相手を内包していき、結果として両社が統合されていく」としたうえで「矛盾とは、物事の発展の原動力である」「割り切らないことこそ、矛盾のマネジメントの要諦」とする。ここから導く「割り切りとは、魂の弱さである」「器の大きな人物は、心の中に、壮大な矛盾を把持し、その矛盾と対峙し、格闘し続けることのできる人物」という論説は、実に深い。


「螺旋的発展を目撃したいのならば、書を捨てよ、街に出よ。何が懐かしいのか、何が便利になったのか。そのことを考えるとき、きっと、世の中の変化の本質と未来が見える」とは、読書好きの端くれには耳の痛い話だが、確かに現場を見ることでしかわからないことは山のようにある。頑張ろう、という意欲を与えてくれる本。さらりと読めて、かつ猛烈に深い。超絶お薦めの一冊だ。