世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】サトウタツヤ「心理学の名著30」

今年16冊目読了。立命館大学文学部教授、立命館グローバルイノベーション研究機構副機構長である筆者が、心理学の古今東西の名著30冊を紹介する一冊。


紹介された30冊のうち8冊しか読んでいなかったため、なかなか参考になる。そして、心理学というのは世間の要請に応じて発達してきたんだなぁ、ということも改めて痛感する。


筆者の紹介が、またわかりやすい。「心理学には、1.動物界の一員としてのヒトの心理、2.発達・成長する存在としてのひとの心理、3.社会を作り、社会で生きていく人の心理の3つの側面がある」「私たちは概念で世界を語ることによって失ったものがある」「ストレスを情動として捉えれば、私たちの生活における様々な出来事とその影響はすべて関係的なものであり、こうした現象を捉えられるのは物語アプローチなのである」「教育とは、良い手助けを与えながら、次々と自力でできることを拡大していくことだ」など。


現代への警句も多い。「罰が問題なのは、罰に効果がないだけでなく、人格的なダメージを与えることにもある。さらに、何が良くない行動であるのかということを罰を与える人が決定している点も問題である。まさに自由と尊厳を脅かす手法なのである」「手助けを得ながらやり遂げることを禁止するより、最初は一人でできなかったことが、他者とのやり取りを通じて自分でできるようになる事、また、さらに難しい課題において他者とのやり取りを通じて課題解決できるということ、それこそが、今日のネットワーク社会において重要」「正義の反対語は『悪』だと思っている人が多いが、そうではない。正義の反対語は『もう一つの正義』である」「速考と熟考、経験する自己と想起する自己、これらの対立を超えたところに、人生の幸福を理解するためのカギがある」など。


心理学という世界の手引きとしては、なかなか有用である。ぜひ、一読し、心理学の世界に足を踏み入れていただきたい。


余談だが、言語マニアとしては「Emotionは時に情動と訳されるが、Eは向かう、motionは行為、であるから、まさに行動に駆り立てるものが感情」「聖アウグスチヌスの根源的イデアという考えを参照して元型(archtype)と呼ぶ」「ニーズという語があり、それはたいてい必要とかニーズと訳されているが、その本来の意味は欠乏である。そして、その欠乏を埋めるための行動が、動機づけられた行動ということになる」などの言及は実にワクワクする。言葉の起源というのは、概念化の際には特に影響を強く持つからなぁ。