世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤沢令夫「プラトンの哲学」

今年13冊目読了。西洋哲学専攻の京都大学名誉教授である筆者が、プラトン哲学の核心をまとめた一冊。


そもそも、哲学の本を読むのは非常に骨が折れる。なかなか、この手の脳味噌の使い方に馴染んでいないからだろう(それはそれで情けない事であり、恥ずかしいが)。太陽、線分、洞窟論など、にわかに理解し難い事を噛み砕いてくれているので、それでもまだ何とかついていける。


プラトン哲学のベースとして「プラトンほど、自然を生命なき物質とみなしてはならないことを、生涯一貫して強く説き続けた哲学者はいないだろう」「知るとはその人の行為の隅々まで支配する力を持つはずだ、そうでなければほんとうの知とはいえない、という知への要求のきびしさ」「ただ生きることではなく、よく生きることをこそ、何よりも大切にしなければならない」とする。


生きる上での留意事項としては「無知の知とは、自分が何事かを知っていると思いこむ以前の状態に、つねに自分を置くことへのたえざる習熟」「そもそも言葉を語るということは、声を出して語る場合も心の内なる独語(内心の声)の場合も、その言葉を自分で聞くことでもあり、その言葉に他人が反応するのと同じように自分も反応すること」「学ぶこととは魂が生前にすでに学んだことを想起すること」とする。


プラトンが、ともすれば誤解されがちなのは「魂と身体の対立という表立った語り口の基底にあるほんとうの対立は、魂の働きの二つのあり方の対立、すなわち、一方における知と思惟、そしてそれへと方向づけられた感覚・欲望・エロース・快楽と、他方、飲み食いや性愛にかかわる身体的なものへと方向づけられた感覚・欲望・エロース・快楽との間の対立なのである」「イデア論にとって肝心かなめの重要な区別である感覚される性質と、それがあってこそ感覚される性質がありうるところの思惟されるイデアとの区別が、この物・個物と性質・本性との間に引かれる区別の陰にかくれて、不明確になることがどうしても避けられない」と述べる。


全般的に、骨が折れる新書だが、それだけの価値はある。逆に、2400年を経ても尚、自分の思索レベルはこの程度か、と愕然とする。そんな中で、筆者が主張する「人間が押し進めるべき技術は、生き延び原理(快適への志向)ではなく、精神原理(総合的価値としての善への志向)に導かれることを必須の条件とする」は、心に響く警句だ。改めて、哲学は、押さえるべき教養だと思う。


余談だが「プラトニックラブというのは、肉体関係がないことよりも、美のイデアの想起として語られる知的欲求の強さということのほうに、その重点がある」「お酒は火を混じえた液体として、魂を身体とともに暖めるものと定義されている」のあたりは興味深い。