世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】マルモンテル「インカ帝国の滅亡」

今年11冊目読了。18世紀のパリで活躍した詩人、作家である著者が、スペイン人による南米侵略を告発したラス・カサス神父と、狂言によって人間性を失ったキリスト教徒との対立・葛藤を壮大なスケールで描いたインカ帝国滅亡の物語。


結末がわかっているだけに、読み進めながら胸が締め付けられる。しかし、スペイン人が皆、血に飢えた悪魔ではなく、インディオ達と交流した人達もいた、という事実にはどこかこころ安まる思いだ。それにしても、欲やエゴに乗っ取られると、人間はかくもケダモノになるのか…と暗澹たる思いもする。


人間の特性について「ひとが受け入れるのを拒むのは、善きものを愛する心がそれを受け入れない場合だけ」「真の偉大さと純朴さは相通ずるものであり、心の正しさが心の気高さの表れでないことはまれ」「善も悪もあわせ持つ普通のひとびとは、与えられる手本によって良くも悪くもなる。悪党の手下は悪党の心に、勇者の部下は勇者の心に染まる」と見抜く。


人間の哀しき業について「人間は本来弱い存在であり、不幸と背中合わせの人間が慢心に陥ることは狂気の極みである」「熱狂にとりつかれた人間というのは、みずからに対してはなはだ無力なもので、自己の感情を抑制するなど、とてもおぼつかないこと」「狂信ということばで私が意味するのは、不寛容と迫害の精神、憎悪と復讐の精神である」と述べる。


生きる上での心構えとして「最も尊敬すべきは、おのれの過ちをみずからはっきりと認める国民である」「この世のありとあらゆる迷信の中で最も有害なもの、それは、おのが神を信じない者とみれば、直ちにおのが神の敵と断ずるような思い込みである。というのも、そうした迷信に陥ると、ひとを思いやる気持ちが心の中からいっさい失われてしまうからだ」「弱肉強食わ地でいく奴隷制、この恥ずべき堕落の道は、自然への冒涜であり、人間性への挑戦である」などの記述がある。


読み物として面白いし、歴史の事実、人間の業など、学ぶ点も多い。やや分厚めな文庫本ながら、ぜひ、一読をお勧めしたい。