世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】A.H.マズロー「人間性の心理学」

今年5冊目読了。アメリカ心理学会会長を務めた著名な心理学者の著者が、モチベーションとパーソナリティについて書き表した一冊。


マズローといえば「欲求の5段階説(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)」で超有名。そして、その理論を「第一に、人間というものは、相対的にあるいは一段階ずつ段階を踏んでしか満足しないものであり、第二にいろいろな欲求間には一種の優先序列の階層が存在する」として、詳細に緻密に書き表しているのだが、おかげでとっても読むのに骨が折れる(苦笑)。
しかも、5段階以外に「知る欲求と理解する欲求」「審美的欲求」を挙げているのは知らなかった…


けっこう衝撃だったのは、「基本的欲求のヒエラルキーは、我々が示してきたほど不動なものではない」という言及(!)。「欲求が長い間満たされていると、その欲求は過小評価される」「欲求は、(1)訓練によって、(2)報酬によって消失することがある」というのは体感にあっているが・・


その人間観はなかなか深い。「完全な人間などというのは存在しないのである!」と力強く述べて、「人間というものはほとんどの人が考えているより、はるかによく変えられるものである」と主張。行動決定の要因は「(1)性格構造、(2)文化的圧力、(3)その状況や場面」であるとしたうえで「人は抑制、自己─意識、意志、コントロール、文化変容、威厳などから解放される学習をしなければならない」と考える。そして「人は、十全たる人間性潜在的可能性の実現、よりすばらしい幸福、平静さ、至高体験、超越、現実のより豊かで正確な認知などの方向に成長することがよい」と結論付ける。なかなか、共感できる部分が多く、20世紀に人類の英知はすでにここまで来ていたのに、なぜ…という思いも浮かんでくる。


また、人間の行動特性もよく観察している。「我々は、欠乏しているものを求めて奮闘するときや、持っていないものを望むときや、そのような願望を満たそうとして持てる能力を組織するときに、最もよく機能する」「我々は、自分の嗜好・偏見・希望といったものを森羅万象に投影する傾向があまりにも強すぎる」「我々は、(1)型として既にあるものに合わないもの、すなわち奇妙なものには気づかない傾向があるし、(2)最も注意を惹くものは、普通ではないもの、見慣れないもの、危険なもの、怖いものなどである」は本当にそのとおり。


そして、習慣に流されることを厳しく戒める。「習慣や、再生的な学習というものは、実にすべて固い頭の人が、変化しつつあるこの世界を一時的に変化しないように凍結してしまう」「結局、習慣は真実で生き生きとした注意や知覚、学習、思考などを怠惰な方法に置き換える傾向がある」「思考は習慣を打破し、過去の体験を無視する能力」と断じるあたりは、肝に銘じたい。