世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ゲオルギ・ディミトロフ「反ファシズム統一戦線」

今年3冊目読了。ブルガリア共産党活動家にして、第二次大戦後にブルガリアの首相となった筆者が、1935年の共産主義インタナショナル第七回大会でぶち上げた「反ファシズム統一戦線」についての演説を書き起こした一冊。

迸る信念、廻る弁舌、激しい主張。往時の共産主義の怖ろしいまでの盛り上がりを感じる。そして、ファシズムへの厳しい姿勢と冷徹な分析も、非常に鋭いものがある。「権力をにぎったファシズムは、金融資本のもっとも反動的、もっとも排外主義的、もっとも帝国主義意的な分子の公然たるテロ独裁である」「ファシズムが大衆を引き付けるのに成功するのは、デマゴギーをもちいて大衆のとくに痛切な必要と欲求に訴えるからである」とする。そして、怖ろしいのは「ファシズムの大衆的基盤の急速な崩壊をうながし、ファシスト独裁の打倒を準備する独特の方法と手口を研究し、体得し、これらの国の具体的条件に応じてそれを適用しなければならない」とするところである。

そして、反ファシズム共産主義の浸透を図るために「共産主義者の指導的役割について大言壮語するのでなく、日常の大衆活動と正しい政策によって労働者大衆の信頼をあがない、かちとるのでなければならない」「われわれは、それぞれの事典、それぞれの場所で具体的な情勢を考慮することにし、いつでもどこでも一定の型にはまった行動をとることなく、事情が異なれば共産主義者の立場は同一ではありえないことを忘れないようにしたい」「われわれが大衆にわかりやすい言葉で語ることを学びとらないかぎり、われわれの決定を広範な大衆のものにすることはできないということを、念頭にとどめておかなければならない」など、手法論としても非常に正鵠を射ている。

それにしても、これだけ冷徹で的確な分析をしつつも、自分のこととなると盲目的になってしまう。「プロレタリアートの行動の国際的統一は、プロレタリアートの国家、社会主義の国-ソヴェト連邦-のたえず成長しゆく力をたよりとしていることを考えれば、一国内および国際的規模でのプロレタリアートの行動の統一を実現することがどれどほ広い展望をひらいてくれるかがわかるだろう」「プロレタリア革命だけが、文化の衰亡を防止し、それを形式において民族的な、内容において社会的な真の国民文化として花ひらく最高の水準にまで高めることができる」など、後知恵ではあるが、一体何を言っているんだ、という感が否めない。挙句の果てに「マルクスがわれわれに教えたように、他の民族を抑圧する民族は自由であり得ない」など、冗談がきつすぎる。

己のことが一番見えない。これは、現在にもつながる警句である。それを感じ取るには非常によい一冊だ。勉強になる。