世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】J・L・フロマートカ「なぜ私は生きているか」

今年133冊目読了。チェコスロバキア神学者として、第一次大戦、第二次大戦を経て共産主義国となった祖国への強い思いを抱き続けた筆者が、その半生を振り返る一冊。

日本人には馴染みの薄い神学であるが、これについては「神学が取り扱うのは、人間のカテゴリーや方法を超えた現実なのである」「信仰は、確かに恩寵を信頼することであるが、同時にキリストにつき従っていく服従と信頼なのである」「教会は歴史的事件の意味に、生きている歴史的状況の現実に、絶えず関心を払うべきであり、そうすることによって教会は最も困難かつ逆境の中でも人間を理解し、恐れることなく自己の使命を遂行できるのだ」とする。

20世紀が直面した状況については「現代人は自己を破滅させ、現代人の自信が真の人間性の最良かつ最善の源泉を人間から奪ってしまう危険に直面している」「われわれが他者を赦す必要があり、またわれわれが赦すことを求められているのを自覚しないならば、われわれは周囲の人々と正しい関係を打ち立てることができない」「われわれは、人間性、兄弟的奉仕における自由な責任感と真の連帯をもたらすために、すべての創造的影響力を結合しなくてはならなくなる時代の入り口に立っている」と指摘する。

歴史については「古い国家と社会秩序崩壊の後、責任を負う人々が創造的力を持つ歴史から熱心にすべてのものを獲得し、さらに人々が岩や川の砂から黄金を取り出すときに、体系的建設の時代がやってくる」「歴史は、出来事が個人、国家および文化的、社会的団体の精神、希望、決断、行動を継続的に変えるときにのみ歴史となる」と読み解く。

生きる上での構えとしては「われわれは、自己の現実的課題の中でと同様に、自己の弱さにおいても、自己を制御し、認識しなくてはならない」「燃えるような熱狂的な心を抜きにして、確信に対する情熱を抜きにして、明日への勇気を持った見解を抜きにして、偉大なことは何も成し遂げられない」「われわれはすべての出来事や人物に対して自己の責任の基盤の上で対決するのである」と主張する。

佐藤優が絶賛しているので読んでみた。なるほど、二度の大戦という絶望や亡命、そして帰国という数奇な運命も相俟って、神学者といっても大いなる実践家であったことがよくわかる。高邁な理念だけでは、現実は生きられない。しかし、泥臭い現実だけでは、流されてしまう。そこを、いかに人間と神を見つめながら、現実の世の中を進むのか。今なお、時代の課題は重くなるばかりであり、考えさせられる一冊だ。理解しにくい部分もあるが、面白かった。