世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】池田徳眞「プロパガンダ戦史」

今年129冊目読了。第二次大戦中に外務省ラジオ室で国外放送の傍受に従事していた筆者が、各国のプロパガンダからその本質に迫る一冊。

人間心理を深く衝く必要がある、というプロパガンダの特性を緻密に分析し、掘り下げる記述はとても興味深く、自分の浅知恵を思い知らされる。こんな戦争もあったのか…そして、それはどんどん巧妙になっている、ということを考えざるを得ない。

まず「戦争中はだれでも報道におびえている。というのは、だれでも真実はたまらなく知りたいのだが、しかし悪いニュースを聞くことが恐ろしい」と見抜き「まず、戦争で興奮している敵国民の感情を沈静させることが、こちらの謀略宣伝を受け入れさせる素地として大切である」とする。その上で「宣伝は施政者には論理的に、大衆には感情的に」と述べる。

手法についても「敵に思わせたいことを自分でいってしまうのでは、宣伝者としては落第」と戒め、「相手を誹謗する前に賞賛することは、対照の妙もあって、宣伝の一つの定石」とする。

宣伝の原則については「宣伝とは、他人に影響を与えるように、物事を陳述することである」「プロパガンダでは、より広く、より深く敵の心を知る者が勝つのだ」「宣伝放送の要諦は没我、間接、反復、攻撃、質問、同情、神秘」とする。

面白いのは、各国の宣伝態度の比較。
「一、ドイツ人は、力の信者で、自己反省がなく、武力以外は相手のことを知ろうとはしないから、対敵宣伝には向かない。
二、フランス人は、ラテン民族の長女で世界一の文化をもっていると慢心しているから、初めから他国民を理解しようという気がない。
三、アメリカ人は、多民族の個々のちがいを切り捨てて国をまとめようとしているから、各国人の心をいちいち深くは知ろうとしない。四、イギリス人は、世界じゅうの民族と接触し、闘争し、苦労をしてきたから、これらの仲間のうちでは、桁違いに外国人の心をよく知っている。」
…じゃ、日本人はどうなんだ、と言うと「敵を知り己を知らば、百戦危うからず、という孫子のことばは、戦前の日本人ならばだれでも知っていた。しかし、それが口先だけのお念仏で、敵の恐ろしい力を知る努力もしないで、太平洋戦争をしてしまったのではなかったか。」と断じる。まさに然り。そして、未だにそこから抜け出し切れていない…

心に残るのは、著者の師匠と著者の信条。「人のまねをせず、自分の頭で物を考えること、なりゆきで仕事をせず、あくまで信念に忠実であること、新しい試みをおそれず実行すること」。自戒したい。