今年124冊目読了。建築を学んだ筆者が放つ、大人向け伝奇ロマン。
生死、愛憎、この世とあの世。往来する世界観は、ちと受け入れにくいが、読んでいくと引き込まれ、つい読み進める。生への執着、死への嫌悪、喪ったものへの生を賭しての拘泥。そういったのもが、くっきりと描き出されている。ラストを含め、些かどうなんだ?という思いはあるものの、生死観について考える上で、一度読んでおいた方がいいな、とは感じる。
また、いい記述もそこここにある。「彼女の親切心は、自分が親切にされたい気持ちの裏返しなのだ。」などは、人間の哀しいエゴを浮き彫りにするし、「『本物そっくりというのはだめなのね』『人間ってのは、むきだしの現実は見たくないらしい』」というのも、人間の特性である、見たいものしか見ない、という点を衝いている。「黙っていれば、それだけ二人の距離は開いていくばかりだった」も、言葉の大事さを物語る。
そして、人間は社会性の生き物であるとともに、自分を唯一無二と考えたい、という二律背反に対しても、いい記述がある。「…ひょっとしたら僕は安全な自分の甲羅の中にいて、外の世界に自己流の解釈をつけていただけかもしれない。甲羅の外の世界に出て行くことをせすに、それを直視するのを避けてきた。」「もう視線を逸らさない。受け入れるのだ、と思った。自分の感情、解決をつけてこなかった心の奥を見つめるのだ。」「生きていくとは、こういうことだ。山積する問題を背負いこんで歩く。それが亀の甲羅。人は皆、意識するにしろしないにしろ、その甲羅を背負って生きている。甲羅を抱え込むこと自体、生きていることの証、生者の特権だ。」
読み方はいろいろありそうだが、自分の読了感はこんなところ。