世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】渡辺洋二「双発戦闘機 屠龍」

今年123冊目読了。航空史の研究家である筆者が、第二次大戦下で開発され、数奇な運命を辿った機種をめぐる開発者、技術者、操縦士、陸軍幹部らの人間模様を描き出す一冊。

もともと、自身が軍事方面にもある程度の興味があることを割り引いても、これは面白い。細密にわたる調査と、可能な限り事実に寄せようという筆致に加え、通奏低音のように響く「無定見な陸軍幹部への怒り」が、身につまされる。戦争ものではあるが、現代日本においても全く解決されていない問題提起がなされている、と感じる。

かなりマニアックな中身で、一般的には意味不明な用語も多数出てくるため、諸手を挙げてお勧めはできない。しかし、言わんとしていることは汎用性があると感じる。

「ケチをつけるばかりが用兵者側の任務ではなく、長所を引き出して伸ばしてやるのも大切な役なのである。」「陸軍と海軍は上層部ほど仲が悪く、リベット一本でも同じ製品を使いたがらない。技術の交流は皆無ではないが、積極的とはとても言えず、機銃、機関砲は別々のものを用いた。こんな国は日本だけである。」「不安定な新機軸を追い求めず、確実に消化した技術でまとめ上げた、重爆撃機の邀撃に十分に使えるキ九六を、全力で育てていれば、十九年の夏にはまちがいなく戦力化されていただろう。航空本部をはじめとする機材開発・装備指導層の不明と錯誤が、悔やまれてならない。」「泥縄式に高高度戦闘機を発注し、無理を重ねてかろうじて実用化にこぎつけたが、時すでに遅し、という状態は、日本軍の方針と国力のレベルを端的に示している。」のあたりは、見極め、決めることの難しさを物語っている。

また、筆者の取材姿勢も参考になる。「なんでも疑ってかかれ、とか、納得のいくまで調べろ、といった言葉は、ものごとを研究するたいていの場合に当てはまる。」「直接取材でむずかしいのは、意外な証言があったときに、事実なのか、当時以来の誤解なのか、あるいは記憶違いなのかを見分ける点にある。」などは、留意したいポイントだ。