今年120冊目読了。小説家にして劇作家の著者が、自己愛と欲望、屈折した感情が渦巻く三人の長女・長男・次女の交錯と、そのおどろおどろしい関係のねじれを描く小説。
とにかく、描写が巧みで、恐ろしいまでに情景が思い浮かぶ。それに支えられたストーリーの重厚さがたまらない。肉親故の屈折、自己の拠り所を求める主観的願望、耐え忍ぶことを強引に合理化する気持ちの揺らぎ、ほの暗い欲望を何とか放出しようと右顧左眄しつつ莫大なエネルギーが炸裂する戸惑い。誰の目から見ても、それぞれに考えさせられるので、思わず何度も読んでしまった。
佐藤優が勧めていなければ、一生読まない小説だっただろう。しかし、これは本当に読んでよかった。人生に向き合うことの大事さを、とても不思議な形で知らしめさせられる。
「例えば高校の文化祭で演じた舞台を、誰もが白けた目で観ていた時。まさに現実の厳しさを思い知る場面である。だが驚くべきことに、姉はそれらすべての危機を『自分は他人に理解できないほど特別な人間だ』と更に強く思い込むことではね除けていったのだった。」「不幸ありきの幸せ。待子にとって不幸になることは幸福になることとほぼ同意語と言って良かった。」「自分が何物でもない可能性など、あり得ない。」「誰か。あたしのことを。あたしを。特別だと認めて。他と違うと。価値を見出して。あたしの。あたしだけの。あたしという存在の。あたしという人間の。意味を。価値を。理由を。必要性を。存在意義を。今すぐ。今すぐに。」
…もう、言葉の迫力が凄い。ぜひ、一読をお勧めしたい。