世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】大村はま「教えるということ」

今年110冊目読了。50年に及んで一教師として教育実践の場に立ち、退職後も新しいテーマを研究、発表し続けた筆者が、本当に教えるとはどういうことかをエピソードを通じて語った一冊。

別に教師ではないし、教職を今後目指すつもりもないが、親として、そして組織のリーダーシップを考えるものとして、この真剣な生きざま、そして人生への向き合い方は非常に身につまされる思いだ。

「もっともっと大事なことは、研究をしていて、勉強の苦しみと喜びをひしひしと、日に日に感じていること、そして、伸びたい希望が胸にあふれていることです。」と教師の資格を説くが、これは人生を生きるすべての人に当てはまると感じる。また、「一人前の人というのは、自分で自分のテーマを決め、自分で自分を鍛え、自分で自分の若さを保つ。」ということを一人前の教師というが、見た目の若さに走って自らの内面を鍛えない今の愚かなる風潮をズバリと切り捨てるような言葉である。

「『乗り越えて行くこと』、『正しく批判し、反撥すること』は、本当によいことだと思います。」「とにかく、自分自身が、そこで何か育っているという実感があれば、なんとなく離れられない気持ちが出てくるでしょう」のあたりは、組織論、チームビルディングにおいてもバッチリと適合するコメント。また「子どもが一人で生きぬくために、どれだけの力があったらよいか、それを鍛えぬこうとするのが、それが教師の愛情」「みんなが自分の力だと信じ、先生のことなんか忘れてしまってくれれば本懐である」「くふうをいろいろして、みんなの生きていく力を養っていこうとするところに、教師が職業人として徹するところがある」というあたりは、教育論、社員育成にもつながってくる。

「考えたことをそのままにしておかないで、どういう形かで記録しておけば、自分の仕事に対する愛情のようなものがわいて、それが我が身を育てる」は、記録の大事さと成長を結びつける面白い言及であり、この書評の蓄積にも裏書をもらったような心境だ。

教師に向けて書かれた(というか講演されたものを書き起こした)本だが、人生論、リーダーシップ論、子育て論として見ても、秀逸。1996年発刊とは思えないほど、今の時代にも生き生きと響くそのフレーズは、必読といえる。