世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】牧久「昭和解体」

今年107冊目読了。日経新聞代表取締役副社長、テレビ大阪会長を歴任したジャーナリストである筆者が、国鉄分割・民営化30年目にして、その当時の舞台裏を生々しく描き出した一冊。

この系列の本は何冊も読んでいるのだが、「多面的な検証」という意味では、特に政治への切り込みが力強く、国鉄が翻弄されて朽ち果てて沈没する様子がよく見えてくる。それにしても、政治と経営陣の確執、経営内部の派閥抗争、組合と当局の争い、さらにそれをややこしくする組合と組合の争い。こんな組織体であれば、確かに早晩滅びるのは間違いない、と思えるくらい変数だらけだったことがよくわかる。

そして、この本(500ページにわたる大作!)が優れていると思うのは、後知恵で「これが歴史の必然だった」というような断言はせず、時代の流れを大事にして、その中で反主流派が勃興し、だんだん革命に向け力をつけていく様子、それを支援する側と潰そうとする側、をきちんと描いている点だろう。「歴史は勝者の記録」となりがちであるが、勝敗は紙一重であり(この本を読むと、よくもまぁ国鉄の分割民営化にこぎつけたものだと思う)、それぞれに言い分があり、それこそが人間というものの業である。世の中は、多様な思いをもった人々が、ぶつかり、うねり合いながら動いている。それをよく実感させてくれる。

結果として、国鉄官僚の中で反主流派が国体護持派を打ち破り、今のJRに至るのだが、タイミングは別としても、やはりダーウィンの「変化するものが生き残る」はここでも証明された感がある。そして、自分は今の組織で知らず知らずのうちに国体護持派に堕していないか。ただの歴史ものとして読むのではなく、そういった観点も持ち合わせながら読み進めたい一冊だ。