世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤井忠俊「国防婦人会」

今年100冊目読了。茨城大学講師の筆者が、満州事変後から国防婦人会がカッポウ着による兵士の見送りを行い出してからの興隆と、その終焉を描き出した一冊。

これを読むと、戦後の後知恵で教育を受けた身としては「赤紙と、それに耐える…」というステレオタイプな戦中日本の様子がすべてではなく、それまでには政治、軍事と自主的活動として広まった婦人会の何ともおどろおどろしい鬩ぎ合いがあったことがうかがえる。正直、国防婦人会なんて全く知らなかったが、「軍人と関係のない市民として軍事後援をはじめたところに広く市民に訴える基礎があった」「カッポウ着をあえて制服にしたことで、奉仕精神をあらわし、着替える間もなく台所から飛び出した感を出し、着物を飾る上流婦人たちへの反発から大衆婦人層の好感を呼んだ」など、なかなか興味深い。そして、これを活用しようとした陸軍と、国防婦人会の狙いの違いによる食い違い、巻き返そうとする内務省、など、著者が述べるとおり「家と台所をめぐる権力と民衆の鬩ぎ合い」だったわけだ。

イメージにとらわれ、掘り下げようとしない姿勢を猛省する。そして、著者の指摘「戦争と民衆の関係は、醒めた目で、そしてなお深層の情感をよく理解して、動態を深く観察することが必要」のとおりだ。「ああ、知ってるよ」と思考停止することの怖さを学ばせてくれる一冊だ。