世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】横手慎司「日露戦争史」

今年99冊目読了。外務省調査員としてモスクワ滞在し、慶応大学法学部教授になった筆者が、日露戦争は20世紀最初の大国間戦争と位置付けて見返してみた一冊。

坂の上の雲に代表される「司馬史観」は、読み物としては面白いが日本人の「歴史からの学び」については大きな弊害となっている、と最近感じていたのだが、それをものの見事に裏付けてくれるような論調が嬉しい。本著は、日露双方の史料に基づき、「事実と、それを両陣営がどのように捉え、どのような心理で動いたのか」をしっかりと見つめているので、歴史の教訓としての意義が大きい。

そして「植民地戦争の一つの特色は、欧米列強の側が軍事力と経済力で圧倒的優位に立ち、相手方の戦闘能力を軽視して戦争に入る事」「ロシアは外交的配慮の不足から戦争を支援する態勢を生み出せなかった」「日露戦争はその規模においても、また用兵のレベルでも、利用された兵器のレベルからしても、さらには長期戦を支える前線と銃後の密接な関係からしても、この時期に頻繁に起こった植民地戦争とは全く異なるものであった。ひとことでいえば、戦争は普仏戦争以来30年以上も存在しなかった大国と大国の戦争だったのである」など、大きな視座から日露戦争を捉えなおす。

「近代戦では、軍の動員と集結の能力が勝敗に決定的な意味を持つ」「対立する二国の間では、一報が自国の安全を増大させようとすると、他方は不安を増大させ、悪循環を生みやすい状況が生じる」「近代の戦争では、銃後の国民の支持は不可欠」など、歴史の一般則を見いだしているあたりも、非常に好感が持てる。この本は、近代史、そして今に続く現代史を学ぶ上で、押さえておきたい。