世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】鈴木英生「新左翼とロスジェネ」

今年94冊目読了。毎日新聞記者の筆者が、失われた世代の視点から新左翼の精神の系譜を書き記した一冊。

いわゆる「ロスジェネ」と呼ばれる世代の現代の閉塞感には、新左翼の勃興期から存在した「自分探し」が通奏低音として繋がっている、というダイナミックな着想。しかし、この本が書かれたころ(2009年)には蟹工船ブームもあったりして、確かにその説には一定の説得力があると感じる。

著者は1975年生まれであり、ロスジェネ該当者なので、新左翼の体感は全くなく、筆者自身が認めているとおり「当時の発行物に頼った」書き方になっている。とはいえ、「自分探しが生じた主な原因は、終戦共産党の権威失墜、高度成長に伴う社会と大学の変化」「かつての人々を自分探しから新左翼運動に流し込んだ仕組みは、大枠で言えば実存主義疎外論」「蟹工船は、貧困→連帯、新左翼学生運動は自分探し→連帯、今の若年層は貧困+自分探し」「高度成長による社会全体の均質化は、人々を平等で豊かにした一報、共同性を破壊することで、人間関係や精神的な面での溜めを奪った」「購買力以外で個々人の力を肯定する力が失われた」など、納得する論述が多数。

逆に、当時の人々に今インタビューが(仮に)可能だったとしても、当然、彼らは後付け的に自分たちの行動を正当化するだろうし、その記憶は美化されてしまう。そう考えると、著者の手法はあながち間違っていないのではないだろうか。

一般則としても「あまりに締め付けすぎたり、いじめすぎたりすれば、もともとはまったく過激ではない人たちでも場合によっては暴発する」「「死というものを意味づけようとすることは、必ず人を不自由にする」などの指摘があり、非常にわかりやすい。

往時の空気感、新左翼の系譜などが勉強になる良書だ。