世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】半藤一利「ノモンハンの夏」

今年93冊目読了。歴史作家である筆者が、ノモンハン事件における作戦意志決定の流れを検証し、秀才揃いの作戦将校たちの無能、楽観、優柔不断が引き起こした惨事を厳しく糾弾する一冊。

帝国陸軍の作戦将校が起こした「人災」ともいうべきノモンハン事件。作戦将校といえば、陸軍大学校を首席で卒業するようなエリート中のエリート集団であるが、それが「参謀本部」と「関東軍」という本社・現場のような関係性の中で、現実を無視した愚かな意志決定を繰り返すザマをこれでもかと描き出す。

正直、読んでいてげんなりするし、情けなくなる。こんな先人たちの愚かなる失敗の積み重ねの上に現在の日本があるのか…と思うと、本当に嫌になる。しかし、「一定の戦理や理論にもとづいてつくられた冷厳な作戦方針が、仲間内にあっては、多分に情緒や空気によって支配されてしまうことがある」「『過激な』『いさぎよい』主張が大勢を占め、『臆病』とか『卑怯』というレッテルを貼られることを最も恐れる」「戦場において、戦う将兵が必勝の信念をもって、敵をのぞんでかかることは必要なことである。しかし作戦をたてる参謀や、全軍指揮の任にある師団長までが抽象的な必勝の信念を抱きすぎて、敵を弱いとのんでかかるのは危険この上もない」「反省するには謙虚さが必要なのである」などの記述は、先人たちを厳しく叱責するだけではいられず、自分にもその悪癖があることを認めざるを得ない。

また、秀才に対しても手厳しい。「子供のころから社会的には目隠しされたまま、成績と履歴によってそこまできた人物でしかなく、人間的にとくにすぐれているわけではない。かれら秀才とはそれでなくとも常に主観的にものをみる人びとである。そして正しいとしていることが踏みつけられると、躍起となるか、ふてくされる。プライドを傷つけられることは許さない」…なるほど、けだし慧眼。

「組織は常に進化しそのために学ばねばならない」という言及は、ノモンハン事件から80年が経った今でもなお、日本人が「学びきれていない」部分であり、日々留意すべきことだろう。すべての官僚組織においては、新人時代にこの本を通読するべきではなかろうか。