世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】村山昇「働き方の哲学」

今年86冊目読了。文筆家の筆者が、物語を求める人間心理とその罠を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
人の語るストーリーに興味のある人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『人間はなぜ物語を求めるのか?』には「人間は時間的前後関係の中で世界を把握する。不本意な危機を理解するため、時間を遡って、それが自分に理解できる事情によって起こったことにしてしまいたい。世界に対するなぜ?という問いと、それへの回答が、ストーリーのストーリーらしい滑らかさを産む」。
『ストーリーの罠は?』には「ストーリーが滑らかでわかりやすいとき、ただの前後関係や相関関係を因果関係にこっそりスライドさせている場合がある。自分が納得するためなら、いくらでもがさつなストーリーを構築し、それが自分を苦しめる。多くのものを操作しようとすればするほど、うまくいかないできごとの数が増す」。
『生きるうえで留意すべきことはなにか?』には「ただひとつ操作の可能性があるものは、自己の選択。自分の感情の赴くままに行動することは選択がないので不自由。自分のストーリーの守護を一人称単数にすることが、ストーリー的苦境を脱する第一歩」。

自分の心理・行動の基本をなす「U理論」にも一脈通じるところがあり、非常にすんなり入ってくる。「人は伝えるべき内容があろうがなかろうが、言葉を発したい生き物」「人間は自分の行動の動機を、リアルタイムで意識できないことのほうが多い」など、なるほど納得!という記述が多いが、一番のカギとなるのは「他者は自己の欲求を満たすために存在・行動しているわけではなく、自己も他者の欲求を満たすために存在・行動しているわけではない」という認識。しかし、人間はどれだけ「周囲が自己の欲求を満たしてくれない」ことに、無理やりストーリーをこじつけ、現実を見ることから遠ざかり、感情のままに流されて苦労をしていることか。

構造を知ることで、脱出の可能性がでてくる。その意味で、読むべき一冊だ。新書でさらりと読める割に中身は重厚で、面白い。