世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】カフカ「変身/掟の前で」

今年76冊目読了。チェコユダヤ人の筆者が、不思議かつ考えさせられる独特の作風を如何なく発揮した名作を集めた一冊。

「何が書いてあるのかは明瞭に理解できるが、それが意味するところが何なのかを解釈しきれない」のが、この著者の面白いところであり、不快、いや深いワールドが拡がっている。「判決」なんて、最初読み終わって、「俺、何か勘違いしてんのかな?」と思って二度読みなおしたほど。それでも、勘違いはなく、そのねじれに「これはいったい何だ?」という疑念に陥っていく。

また、有名な「変身」も、非常に不快かつ嫌な結末ながら、つい引き込まれる。これは若いころに読んだことがあるのだが、40を過ぎて読むと非常に味わいがある。唐突な容姿の変化が、周囲からの強烈な変化というフィードバックを産み、結果として自分も変化を受け入れねばならない、という事については、自身が病気で(ここまで苛烈ではないが)同様の経験をしたことがあるため、身につまされる。結局、世の中は他者の評価と、不可逆性によって囚われているんだなぁという絶望的な気持ちになる。自分の存在意義とは何なのか?家族とは何なのか?という命題が突きつけられていることにすら、20代に読んだ時には気づかなかった。

「アカデミーで報告する」「掟の前で」に至っては、いよいよ何を意味しているのかすらわからない。ただ、「掟の前で」を読んで感じたのは「いちいち人の許可を取ることに、自分の人生を浪費してはならない」ということだ。自分の人生は、自分が決める。そうでないと、あっという間に死という死神が追い付いて、とらえられてしまう。

年代ごとに読むと、味わいが違う。そんな不思議な作品なので、すでに読んだことのある人も、今一度、再読をお勧めしたい。