世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】スタンダール「赤と黒」

今年71・72冊目読了。フランスの生んだ名小説家の大作。

主人公の野心と恋。明晰な頭脳を持ちながらも、生まれの悪さの劣等感と富裕層への憎しみ、そして何としてものし上がろうという燃えるような野心。これらによって、その才能を活かしきることよりも、むしろエゴによって人々を巻き込み、苦しめながら自らも苦しんでいく、という非常に胸の詰まる流れが、延々と続く。そして、その中でのし上がっていく主人公と、その衝撃的な結末で、強烈なインパクトを残す。

小説のタイトルがまずもって疑問だ。どうして著者はこんなタイトルをつけたのだろうか。正直、読んでも全くイメージできなかった。そして、燃え上がる野心と恋。それが結果的に自らをも翻弄していくという「人間のエゴ」を抉り出すような描き方に感嘆するしかない。どっしりとした読み応え、そして知略に自ら酔いながら、うまくいかないと他責にしてしまうというエゴ。本当に、人間の汚い部分をうまく表現している。

フランス革命後の混乱という時代背景も、「世の中の前提が動きつつある」という漠然とした不安が各登場人物の考えに影を落としていて、さらに読み応えが深まっているように感じる。そう考えると、今の21世紀日本も、実は時代背景としてはそっくりなのかもしれない。