世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】モーム「月と六ペンス」

今年68冊目読了。イギリスの劇作家、小説家が、画家ポール・ゴーギャンの生涯をモチーフにしながら、本当に生きる道を見つけた人間の苦悩と直進、そしてそれに巻き込まれる周囲を描き出す一冊。

主人公のストリックランドとの関係を持たざるを得なくなったストーリーテラーが独白の形で語っていくのだが、主人公が実に型破りで凄まじい。「自分の天命は何か」を見つけてしまった(あえて、見つけた、ではなくこう言いたい)人間は、こうして生きるしかないのだろうか。常々「なぜ、自分はこの世に生まれ、生きているのか」を問う癖があるのだが、逆にそれを見つけたほうがある意味不幸なのでは?(世間基準にのっとってみると)…と思うほどだ。

ロンドンからパリ、マルセイユ、そしてタヒチへ。モームの緻密な筆致が、見事な場面転換と主人公の心情の変化(といっても、極めてわかりにくいが)を描き出している。

人は、何のために生きるのか。その疑問は永遠の謎だが、辿り着かないと解けないものがある。そして、そこに辿り着くことは世間的にはまったく幸せに見えない。ただ、自分の赴くままに、というのは実に不可思議な世界、なんだろうな。そう感じた。

この本のメッセージの深さは到底書評しきれないので、以下、印象に残った言葉を抜き書きする。

「魂の成長のためには、毎日、いやなことを二つ実行しなさい」「他人の言うことなど少しも気にならないという人を、私は信用しない。ちっぽけな自分が多少いたずらしても誰も気にしないだろうという前提があって、そのうえで世間からの批判など恐れないと胸を張っている。無知な人間の空威張りにすぎない。」「苦難が高貴な性格を作るというのは真実ではない。幸福が心の気高さを生むことはときとしてある。だが、苦難は、だいたいの場合、人を狭量にし、意地悪くする。」「私たちは相手がこちらの意見に耳を傾け、こちらの影響下に入ることを、たとえ無意識であれ期待している。そして、期待が裏切られると相手を憎む。無視されることは、人間のプライドへの最大の打撃だ」「結局は、人生をどう意味づけるかによる。社会から個人への要求と、個人から社会への要求をどう認識するかによる。」