今年60冊目読了。フランスの誇る名作家が、死刑囚が自らの最後の日を迎えるまでの内面の揺らぎと不条理との向き合いを描き出した一冊。
序文、「ある悲劇をめぐる喜劇」をあわせて読むと、筆者の死刑廃止への強烈な主張を受け止めることができる。しかも、ありがちな道徳論、「人の命は地球より重い」という所謂「思考停止ワード」ではなく、死刑囚自身の心の動きという観点から死刑反対を叫ぶという技量は、さすがとしか言いようがないし、思わず自らが死刑囚としてその監獄にいるような心境に引きずり込まれる。これを読んだら、「やっぱり、死刑って不道徳で廃止すべきだ」という気持ちにならざるを得ない。
…しかし。これが執筆・刊行されたのが1829年。それから190年経っても、進歩したのは「死刑の方法(公開ギロチンから絞首刑)」だけで、死刑については日本は相変わらずってのはどうなんだろうか。この本を読むと、そういう感想を抱かずにはいられないし、今なおこの本が人類にとって色褪せていないことのほうが問題にも感じる。
他方、ユゴーもそれはそれなりに当時の常識に囚われており、「恥ずべき装置(ギロチンのこと)はフランスから立ち去るだろうし、私たちはそう期待する。(中略)ギロチンは文明の梯子を数段降りて、スペインやロシアに向かうがいい。」…いや、ユゴー先生、そら、あかんで(苦笑)。ま、未だに人種でいがみ合う21世紀の人類も大差ないってことでもあるが…
ちなみに、1832年の序文で、自分の心を掴まれた言葉がある。「私たちはしばしば、理性がもたらす根拠より感情がもたらす根拠を好む。それを忘れないようにしたいものだが、この2つは常に補い合うものだ」。…まさに然り。