世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】中原淳+パーソル総合研究所「残業学」

今年59冊目読了。立教大学経営学部教授の筆者が、人と組織の持続的成長に資するソリューションを提供する研究所と共に「明日からどう働くか、どう働いてもらうのか」を提言する一冊。

〈お薦め対象〉
残業に疲弊するすべての人、組織のリーダーシップをとる立場の人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『なぜ、残業が減らないのか?』には「日本の職場特有である仕事の無限性・時間の無限性が青天井の残業を生む。日本人の仕事観に『努力信仰』があり、量をこなせない人は成長しないというバイアスがある。生活のために残業代が欠かせないと思っている人は、そうでない人より長く残業をする」。
『なぜ、今、残業を減らすべきなのか?』には「長時間労働の慣行を見直さないと、少子高齢化の日本では働き手を増やせない。個人に健康・学びのリスクを与えるだけでなく、残業はむしろ成長を阻害する。企業に採用・人材・イノベーションコンプライアンスのリスクをもたらす」。
『どうすれば残業を減らせるか?』には「他者からのフィードバックにより、こびりついた自らの知識・スキル・信念を捨てていく。短期的に効果を上げるために、残業時間を見える化し、コミットメントを高め、死の谷を乗り越え、結果も見える化して残業代を還元する。成果の定義を努力+成果から時間あたり成果へ、成長の定義を経験の量から経験の質へ変えていく」。

まとめるのが大変なくらい、非常に示唆に富んだ本だ。「なぜ、働き方改革が失敗するのか」というところへの言及も「施策のコピペの落とし穴、鶴の一声の落とし穴、お触書モデルの落とし穴」と非常に実体感としてもわかりやすく読み解いてくれる。パーソル総合研究所の豊富なデータも、中原先生の主張を力強く裏付けており、本当に参考になる。

「やらされムードは、根本的原因の放置で生まれる」「対話は、お互いの違いを顕在化するコミュニケーション」「大人の学びは、背伸び、振り返り、つながり」などの洞察もお見事。この本を読んで、ぜひ日本の残業を減らしていきたい、と思う。

それにしても。中原淳先生、本当に比喩がうまい。かつ、最新の(またはそれに近い)用語も積極的に取り入れて「これからの世代にわかりやすく」を心掛けている点も、非常に好感が持てる。超おすすめの一冊。