今年53冊目読了。SF小説の大家であるイギリス人の筆者が書き記した、さまざまな短編小説を集めた一冊。
表題作をはじめとして、どれもこれも、「ちょっと不思議な世界」に踏み込みつつも、現実に即しているために「あ、少しわき道に入ったらそんなこと起こるかもしれない」と思わせられる。だが、そこにおいても、筆者が描き出すのは人間の愚かさと、その哀しい業。財産欲、名誉欲、支配欲…こういったものに駆られて、自身はおおまじめなのに、むしろ周囲から見ると滑稽な動きをし続けるというストーリーは全ての小説に通奏低音として流れている。
なんとなく、星新一の「ショートショート」の源流となっているようにも感じるが、こちらのほうが人間観察とその哀しさを表していることから、味わい深さはこちらに分があるように感じる。
ひとつひとつはさらりと読めるので、ハードルは低いと思う。ちょっとした時間つぶしにはもってこい、だろうな。それにしても、本当に、光文社古典新訳文庫は優秀だ。このシリーズ、全部読破したいくらいだ(←無謀)。