世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】高田博行「ヒトラー演説」

今年51冊目読了。学習院大学文学部教授の筆者が、ヒトラーの演説が巻き起こした熱狂を、150万語のビッグデータから真実を読み解くべく書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
プロパガンダ衆愚政治への警戒感を持つ人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
ヒトラーは、演説で何を狙ったのか?』には「本能的なものを呼び起こし、奮い立たせ、先導する。送り手が流すいかなる情報も、あたかも自発的であるかのように受け手に受け入れさせる。群衆の心を動かすため、理性に訴えず感情に訴える」。
ヒトラーの演説の言語的特徴は?』には「記憶に残るため、対比・繰り返し・意味をずらす・度数をずらすテクニックを使う。大衆の注意を惹くため、意図的に従来の言い方を避けて新しいことばと概念で話す。聴衆の反応をフィードバックしながら演説を修正していく」。
ヒトラーの演説の動作的特徴は?』には「いちどジェスチャーをはじめたら文が終わるまでジェスチャーをやめない。内的な者への信頼を示すとき、胸に手をやる。敵対者への糾弾、同胞への擁護・共感の際に指さしをする」。

ヒトラーは、原稿を用意せずキーワードのメモを作成したとのことで、まさにライブ感を大事にしながら話していたことがよくわかる。また、先天的なセンスを技術指導によってさらに高めていったことも空恐ろしいくらいにわかる。驚いたのは、「ラジオと映画というメディアを獲得した時から、演説の威力が下降した」ということ。これは「受け手側に聞きたいという強い気持ちがなければ、演説の力は発揮できない」と著者が述べているとおりなのだが、後知恵での感じ方(戦争中、ドイツはずっと熱狂し続けた)は事実と乖離している、というのは実に興味深い。

稀代の演説家(ことの善悪はともかく、その力がすさまじかったことは間違いない)、ヒトラー。思想面ではなく、このような切り口で描き出したことはインパクトがある。そして、「知的水準を対象の中で最も頭の悪い者の理解力に合わせ、プロパガンダを実現する」というヒトラーの罠に、21世紀になってもなお、民衆は陥る可能性があるのが空恐ろしい。これは一読をお勧めしたい。