今年46冊目読了。19世紀フランスが生んだ偉大な作家の中編、短編小説を集めた一冊。
表題作の「脂肪の塊」は、人間のうわべの綺麗事と、内面のドロドロ、そして状況が変わったときの軽薄な手の平返しを見事に描き出している。不快感しか残らない読了感だが、それは、読み手自身が抱えている「汚い部分」を余さずえぐり出して見せつけられる、からだろう。
そのほかの短編も、秀作揃い。厭世的な作風と言われるが、オチのある恐怖小説やほっこりいい話、果ては艶話まで、マルチな執筆力を感じ取ることができる。そして、普仏戦争に従軍し敗戦した強烈な体験が影となり、いかなる話においても陰影を強烈にすることで、かえって話が輝いている、という非常に皮肉な結果になっている。
しかし、これも「自身に起こったことをすべて消化し、作品にぶつける」ということで成り立っていること。ある意味、挫折と屈辱が、モーパッサンの才能を磨き上げ、今に残る特別な作家としていったとも見ることができる。
とにかく、個別の面白さ、そして幅広さを味わうことができる良書。ぜひ、一度読んでいただきたい。白状すると、「モーパッサン」という言葉の響きもあり、これを読む人は非常に気取った感があると勝手に思い込んでいた。そうした先入観、人生には何の役にも立たない(涙)。そして、時代を超える名作には意味がある。