今年38冊目読了。ドイツ貴族の出で、軍人になりながらも途中から作家に転じた筆者の代表作で、人と水の精の不思議な恋愛とその結末を描いた一冊。
森に迷い込んだ騎士と、そこで出会った水の精、そして騎士を想う女性、という三角関係はある意味鉄板の定番ではあるのだが、女性二人の出自についての伏線が非常に興味深く回収されていく。そして、それぞれの思惑はありつつも、お互いに分かり合えない部分が、大きなうねりとなって悲劇的な結末へと流れていく。
光文社古典新訳文庫で出ていたので手にしただけであり、筆者も中身も全く知らなかったが、読んでみるとなかなか面白い。「恋は盲目」とはよくいったもので、主役のウンディーネ(水の精)以外は己のエゴに振り回され、悲劇的な結末を招いてしまう。ある意味、精霊には見えるものが人間には見えない、という暗示にも感じる。
内面描写がなかなか深くて面白いのだが、あとがきを読んで納得。筆者は3度の結婚を経て、しかもいずれも幸せになれなかった、というのだ。いわば私小説的な要素が含まれている故に、苦悩の描き込みが真に迫る、ということなのだろう。筆者のその他の作は(というか本作すらも)あまり有名でないことからも、筆者の筆致力というより「経験をまとめる力」だったのだろう。
…しかし。「ひとりの愚かなる男の、迷える恋の悩みの独白」と考えると、これはこれで味わい深い。3度の結婚なんて、なかなか経験する人はいないので…
余談だが、海の怪物セイレーンの名前が小説内に出てくるのだが、これが「サイレン」の由来である、ということを知ってびっくり。実は、神話由来の語源なんて、そこここにあるんだろうな…